神殺しのクロノスタシスⅢ
更に。

「ヴァルシーナ、って名前は聞いてないけど。ルーデュニアから来た協力者が、『アメノミコト』に情報提供してきた、ってことくらいは、噂になってたよ」

と、すぐり。

へぇ。

「でも、実際にヴァルシーナが会った『アメノミコト』のメンバーは、多分鬼頭含む、ほんの僅かな人間だけでしょうね」

「だと思うよ。ジャマ王国出身者しかいない『アメノミコト』じゃ、ルーデュニア人は異端でしかないからねー」

目の敵にする…とまでは行かずとも。

ルーデュニア人というだけで、煙たがられるか。

…って、『アメノミコト』にとっては、ヴァルシーナは確かに、ルーデュニアから来たルーデュニア人、ってことになるのかもしれないが。

実際のところ、ヴァルシーナにルーデュニア国籍はないはずだ。

偽装して、別の名義で国籍を取得している可能性はあるものの。

だってヴァルシーナの、本当の故郷はもう…。

…。

「…それで、僕が警戒しているのは」

間違いなく、俺の心を読んでいたであろうナジュが。

大袈裟なまでに、話を変えた。

「ヴァルシーナという強力な後ろ盾がいる限り、『アメノミコト』があの程度で引き下がるとは思えない、ってことです」

「…」

…マジかよ。

捨て駒とはいえ、『終日組』の暗殺者を何人も始末したのに。

まだ、俺達にちょっかいかけてくる余裕があると?

「最悪、あの挑戦状自体が、単なる牽制に過ぎないとも思ってます」

あれで牽制なら、本丸は何だよ。

「そう、その本丸が分からないから、困ってるんです」

心を読むな。

「『アメノミコト』のバックに、ヴァルシーナがいる限り…。彼女はまた、絶対に何かを仕掛けてきます」

ナジュは、そう断言した。

…不本意ながら、俺も同感だ。

「実際あの戦場に、ヴァルシーナ本人もいたからな」

「…!羽久、あの森の中で、ヴァルシーナちゃんに会ったの?」

「会ったよ。水色追っかけてるとき」

暗がりから、のっそり出てきたよ。

コウモリみたいな奴だ。

「成程。僕が読心魔法対策の対策をしていると見て、僕の読心魔法圏内から出たところを狙って、羽久さんに接触したんですね」

そうだよ。

全く狡猾な女だ。

「僕もそう思います」

だから、心を読むなっての。

「何の話をしたの?向こうから話しかけてきたの」

「あぁ。でも、大した話はしてねぇよ」

俺は、あの夜…水色と戦っていた最中。

ヴァルシーナとの邂逅の瞬間を、思い出した。
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