神殺しのクロノスタシスⅢ
「戦ったの?ヴァルシーナちゃんと」

シルナは、心配そうに尋ねた。

「いや?あくまでヴァルシーナは、高みの見物してるだけで、水色の加勢はしなかった」

本当に、ただ事の成り行きを見に来ただけなんだろう。

手を出したいのなら、それだけの実力はあるのだから、手を出してくれば良い。

でも、彼女はそうしなかった。

「つまり、そういう契約…。鬼頭との取り決めだったんでしょうね」

と、相変わらず心を読んでくるナジュ。

だろうな。

あくまであの戦いには、参加しない。

ただし、見物はする、と。

もしかしたら、あわよくばシルナの首を狙うチャンスを伺っていたのかもしれない。

残念だったな。そんな機会はない。

永遠にな。

「そもそも、『アメノミコト』に協力してるのは本意じゃない、的なことを言ってた」

「でしょうねー。彼女の『あるべき世界(笑)』に、『アメノミコト』みたいな黒い組織は、最も目障りな存在でしょうし」

(笑)をつけるな。

「だから、それだけに追い詰められてるんだろって言ってやったよ。一人で戦うのは惨めだな、って」

「言いますねー、羽久さん」

「敵だからな」

『カタストロフィ』なんてものを作り、国内のみならず、学院まで掻き回し。

おまけに、シルナの心痛の種になっている女に。

何で、俺が容赦してやらなきゃならないのだ。

「他に会話は?」

「あとはいつも通りだよ。シルナは間違ってるーとか、お得意の、我が一族の悲願がーとか、そんな感じのこと。もう耳にタコだな」

「…あはは…」

シルナは、力なく笑った。

…しまったな。シルナの前で言うことじゃなかった。

ヴァルシーナが、本当は手を組みたくもない組織と協力し。

惨めに一人で戦っているのは。

全て、その役目を放棄したシルナのせいだ。

本来は、シルナがやるべきことだったのに。

俺としては、そんなもん知ったことか、シルナは好きなように生きて良いはずだと思うが。

シルナは今に至るまで、故郷の一族に…そして、もう一人の生き残りであるヴァルシーナに、罪悪感を感じながら生きている。

…お前も、ナジュと一緒だな。

地球が丸いのも、空が青いのも、シルナが甘党なのも生徒が赤点なのも、全部自分のせいだと思ってる。

…いや、シルナが甘党なのは、シルナのせいなんだが。

それ以外は、決してシルナが背負う必要はない。

「それだけ話して、ヴァルシーナは逃げたんですか」

と、イレース。

「ん?あぁ…。そうだな」

「惜しいことをしましたね。何ならヴァルシーナも引っ捕らえておけば、後々楽だったのに」

…確かに。

言われてみれば、そうだな。

何で俺あのとき、みすみすヴァルシーナを逃したんだろう?

「まぁ、仕方ないよ。水色と戦いの最中だったんだし。二兎追ったら一兎も捕まえられないよ」

と、フォローするシルナ。

シルナとしては、ヴァルシーナを捕らえたくはないのだろう。

例え、自分の身が危険に晒されようと。

「でも、それにしては俺が駆けつけたとき、随分余裕そうに突っ立ってたじゃん」

口を尖らせるすぐり。

…え?
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