神殺しのクロノスタシスⅢ
―――――――…羽久さん。

羽久さん。羽久さんは嘘をついてない。  

あの人は隠し事してない。

本人も言っていたが、僕を前にして、隠し事は出来ない。 

だから、嘘つきは羽久さんじゃない。

じゃあ、さっき羽久さんが考えてたことって…。

…。

…それに、ヴァルシーナ。

僕が自覚していない間から、心に仮面を被り、僕の読心魔法を掻い潜っていた、狡猾な女。

あの女が、みだりに敵の前に現れるとは思えない。

高みの見物を決め込み、学院長にピンチがあればここぞとばかりに参戦しよう、というつもりで、あの場にいたのは頷ける。

だが、それなら何故、学院長のピンチでも何でもないときに、姿を見せた?

僕の読心魔法の圏外だったとはいえ…。

しかも、羽久さんにだけ、というのが引っ掛かる。

つまり。

ヴァルシーナにとって、何か意味があったのだ。

羽久さんが僕達と分断され、一人のときに、わざわざ姿を見せることの、意味が。

考え過ぎ、疑り深くなっているだけなのかもしれない。

僕の思い過ごしなら、それは一向に構わない。

でも、もしそうじゃないとしたら…。

「…不味いことに、ならなきゃ良いんですが」

ヴァルシーナ相手に、それは無理な相談だ。
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