神殺しのクロノスタシスⅢ
皆さん、ナスってご存知だろうか。

漢字で書くと茄子。 

ナス科ナス属のナス。

怒涛のナス。

地域によっては、ナスビとも呼ばれる。

皮は紫色で、その皮を向くと黄緑っぽい果実が出てくる。

夏野菜の一種。 

焼きナスにしたり、煮浸しにしたり、麻婆茄子にしたり。

煮て良し焼いて良し揚げて良し、三拍子揃った万能野菜である。

また、食べ物としての用途だけではなく。

お盆になると、ナスに割り箸とかぶっ刺して、死者を迎える乗り物(?)になるらしいが。

僕は例え死んでも(死なないが)、ナス号に乗って現世に戻ってくるのは、ちょっとご遠慮したい。

あと、正月の初夢に出てきたら、縁起が良いらしい。

初夢にナス出てきたことないし、「初夢にナス出てきたよ!」って言う人も聞いたことないし。

ナスが出てきたところで、その一年が素晴らしいものになるとは、とても思えない。

皆、ちょっと冷静に考えてみてくれ。

ナスで、一年幸せに過ごせると思うか?

僕は無理だと思う。

よっぽどナス好きで、ナスの為なら死ねる!って人なら別。

などという、僕の罰当たりな考え方は置いといて。

「何か悪いことでもあるんですか」

「あるよ!」

「ふーん…。ナスに親でも殺されたんですか?」

「親殺したのは自分だよ!そうじゃなくてさー!」

じゃあ何なの。

面倒臭くなってきたから、もう心読もうかな。

と、思ったら。

「ツキナがさぁ〜。嬉しそうにナスが熟れるの待ってるんだよ〜…!」

とか言い出した。

「良いことじゃないですか。好きな女の子が、何かを楽しみにしてにこにこしてる様を見たら、こっちもニヤニヤしたくなりません?」

「めっちゃなる!」

だよねー。

分かる分かる。

「でも〜。駄目なんだよなぁ〜!!」

「何が?好きな女の子がうきうきしてるのに、何が駄目なことがあるんですか」

それ以上に嬉しいことなんてないだろ。

だって、好きな女の子が楽しそうなんだよ?

それだけで、茶碗三杯は行ける。

「…笑わないで聞いてくれる?」

いきなり、すぐりさんの声が低くなった。

「分かりました。笑いたくなったら、心の中で笑います」

「結局笑うんじゃん!」

「僕も人間なんで…」

笑いたいのに、我慢するのは無理ですよ。

だから、笑いたかったら心の中で笑おう。

「で?あなたの笑い事は何ですか」

「笑い事じゃないってば!もー、そうじゃなくて…」

「はいはい、良いからさっさと言ってください。僕も忙しいんですよ」

リリスとイチャつきたいのを、頑張って我慢してるんだから。

用があるなら、早く言ってくれ。

すると。

「…俺、駄目なんだよ」

「…何が?」

「…ナス」

「…ふーん…」

「…」

「…」

「…何か言ってよ!」

ふーんって言ったじゃないですか。

成程ね、そんな顔真っ赤にして、何を告白しに来たのかと思えば。

そういう話でしたか。
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