神殺しのクロノスタシスⅢ
「ツキナが言うんだよ〜!『ナスが熟れたら、何にして食べよっか?煮浸し?天ぷら?シンプルに、ナスステーキにしても良いよね〜!』って、めっちゃ嬉しそうに!凄い可愛い笑顔で!」

…すぐりさんが。

「でも俺駄目なの!無理なの!食べられないんだよナスは〜っ!」

悶えてる。

ナスが食べられないって悶えてる。

面白い光景だなぁ〜…。

「聞いてるナジュせんせー!?」

「聞いてますよ。あなたが今、『今この瞬間だけでも、ナス食べられる人間に生まれ変わりたい!』とか支離滅裂なことを考えてることも、よーく知ってます」

「心読んでるんじゃないか〜!!」

面白かったもんだから、つい。

「馬鹿にしてるでしょ?」

「別に…。嫌いな食べ物くらいあるでしょ、誰でも…」

それがあなたの場合、ナスだったというだけで。

しかし。

それはすぐりさんにとって、重大な問題なのである。

だって。

「あんなに楽しそうに、ナスが熟れるのを待ってるツキナに…。何にして食べようかってうきうきしてるツキナに…。どーやって言えば良いの?へらへら笑って、『俺、実はナス嫌いなんだよねー』って言えばいいの?」

「…はぁ…」

へらへら笑わなくても、普通に言えば良いんじゃな、

「ナジュせんせーには、想像力ってものが欠如してるね!」

「え」

何だと?

今、何て言った?

「考えてみてよ。例えば、自分の好きな女の子が、『あなたに、私の得意料理を作ってあげるね!』って、さいっこーに可愛い笑顔で言ってきたとして」

うん。

想像してみる。リリスが、「私の得意料理作ってあげるね!」って言ってくれるところ。

これだけで二杯は行ける。
 
「でもその得意料理が、自分の食べられないものだったら!」

「…僕、そんな食べられないものないんですが…」

「じゃあ例えを変えるよ!その得意料理が、消し炭と生ゴミの混合物だったら!?」

「…!」

思い出す。

リリスと融合する前のこと。

そういえば、リリスは…。

…料理、破壊的に苦手だった。

そりゃ魔物なんだから、料理を作る機会はなかったんだろうけど。

それにしたって、酷かった。

「ナジュ君成長期だから、お姉さんが手料理を食べさせてあげよう」とか言って。

料理という名の、食材の破壊工作を行い。

出てきたのは、先程すぐりさんの言った通り。

消し炭と、生ゴミの混合物だった。

成長促進どころか、未来永劫成長が止まりそうな味だった。

僕、よく生きてたなぁ〜…。

「無理でしょ!?笑顔で平らげるなんて無理でしょ!?」

「成程、無理ですね」

笑顔で平らげるどころか、僕あのとき確か、気絶したよ。

お陰で、今すぐりさんに言われるまで、記憶にさえ残っていなかった。

これは死活問題だ。
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