神殺しのクロノスタシスⅢ
「…あっ!」

「ふぇ?」

俺がいきなり大声を出すと。

トマトを齧っていたツキナが、くるりとこちらを向いた。

よし。

「ちょ、ツキナあれ何?UFO?UFOじゃない!?」

「えっ!UFO!?何処、何処!?」

「ほら!あそこあそこ!」

俺は、必死に空を見上げ、指を差した。

そこには勿論、UFOなんてない。

そもそも俺、UFOなんて見たことない。

ナジュせんせーもないらしい。

つーか、「あっ!あれUFOじゃない!?」と言って。

本当に「UFO!?何処!?」と騙される人間は、多分ツキナくらい。

あ、でも。

学院長も、引っ掛かりそうではある。

「あ!あれ空飛ぶケーキじゃない!?」とか言ったら、マジで引っ掛かりそう。

いや、そんなことはどうでも良い。

「すぐり君すぐり君!UFO何処!?」

「あぁほら、そっちじゃなくて、あっち!ほら!点滅してるよ!」

「えぇぇ!何処何処!?私見えないよー!」

大丈夫、俺も見えてない。

雲しか見えてないから。

ツキナが阿呆のように首を真上に上げて、きょろきょろと空を見上げている、その隙に。

俺は、片手に持っていたトマトを、自分の制服の裏に隠した。

これぞ、ナジュせんせーの考案した、必勝法。

最初聞いたときは、今時、そんな作戦が通用するのかと訝しんだものだが。
 
「UFO!UFO何処!?CQ!CQ!」

ぶっ刺さりである。

「ちょっと頭が弱いツキナさんなら、行ける行ける」と言っていたナジュせんせー、さすがである。

そしてツキナ。

君は本当に、こんな子供騙し作戦に引っ掛かってしまうのか。

将来絶対、ありとあらゆる詐欺に遭うぞ。

俺が守ってあげないとなぁ。

さて、無事にトマトも隠したので。

「ねぇねぇ、すぐり君!UFOは!?」

「あー…。もういなくなっちゃったよ…」

「えー!」

ガーン!と残念そうなツキナ。

見たかったのか。UFO。

「見逃したね〜、ツキナ。貴重な瞬間を」

「あぅぅ〜…」

ま、最初から、そんなもの何処にもないから大丈夫。

「どうしよう、すぐり君…」

「何が?」

「地球を侵略しようと思って、偵察に来てたのかも。そしたら私達、みすみす見逃しちゃったことになるよね?」

想像力豊かだなぁこの子。
 
伊達に、白馬の王子様を夢見てるだけのことはある。

「だ〜いじょぶだいじょぶ。もし宇宙人が侵略しに来たら…」

「仲良くなれるかな?」

「…さぁ…」

俺が全部倒してあげるよ、と言おうとしたら。

ツキナは平和主義だった。

まぁ、大丈夫だ。

宇宙人だろうと神様だろうと、幽霊だろうと。

人間ほど、恐ろしい生き物はいないからさ。
< 449 / 822 >

この作品をシェア

pagetop