神殺しのクロノスタシスⅢ
「え、ちょ…アイナちゃん、今何て、」

「おとうしゃまみたいに、どっかーんって、ばっこーんってする、かっこいい『けんし』になるの!」

…マジで?

この場にいる、誰もが想像した。

父娘で大剣を振り回し、立ちはだかる敵を派手に粉砕していく姿を。

…地獄絵図。

アトラス一人だけでも、充分強力なパワーを秘めているのに。

その血を継ぐアイナまでもが、アトラス二世となったら…。

…最悪、ルーデュニア崩壊の危機も有り得る。

「あ、アイナ…!ま、魔導師になるのはどうですか?お母様みたいな魔導師に」

恐ろしい未来を想像したであろうシュニィが、何とか軌道修正を図ろうとする。

するとアイナは、うーん、と少し考えて。

しかし。

「…やっぱり、おとうしゃまみたいになる!」

駄目だった。

軌道修正、失敗。

「おとうしゃまみたいな、すごい『けんし』になって、皆を守るの!だからレグルス、しんぱいするな。おれがまもってやるからな!」

と。

恐らくアトラスが、口癖のようにアイナに言っている言葉を真似て、レグルスに向かって言うアイナ。

勇ましい。

そして可愛らしい。

さすが聖魔騎士団団長の娘、その心意気は大変素晴らしい。
 
…の、だが。

…そんな勇ましい少女の夢を、素直に賞賛してやれない俺達がいる。

シュニィは絶句、シルナは唖然。

アイナは、子供ながらにふふん、とドヤ顔。可愛い。
 
アイナの膝の上に乗っているレグルスは、アイナの夢を応援でもするかのように、きゃっきゃとはしゃいでいた。

俺は、何と言って良いか分からず、無言だった。

なんつーか、あの、シュニィ。

…ドンマイ。

しかしこの場で一人だけ、興奮する男がいた。

「偉い!偉いぞアイナ!さすがは俺とシュニィの子だ!」

言わずもがな、アトラスである。

そりゃ喜ぶわな。

最愛の愛娘が、「将来は自分のような剣士になる」と意気込んでいるのだから。

「大丈夫だ、お前なら出来るぞ!よし、お父様がお前に剣術を教えてやろう。お前なら立派な剣士になれるぞ!」

「わーい!」

勝手に盛り上がってる父娘。

…シュニィ。あまり言いたくはないが。

アイナは…もう駄目かもしれん。

脳みそが、完全にアトラス。

「レグルス…。レグルスだけでも何とか…」

シュニィは、何とか長男だけでも、アトラス脳から救おうとするも。

「よーし!レグルス、お前もアイナに続け!人々を守る、立派な聖魔騎士になれる素質が、お前にはある!」

アトラスに高く抱っこされ、それはもうきゃっきゃ喜んでいるレグルス。

…無理そう。

「…」

俺は、絶望するシュニィの肩に、ポンと手を置いた。

強く生きよう。な?
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