神殺しのクロノスタシスⅢ
さて、クュルナの次は。

「吐月くーん!元気ー!?」

「わっ、びっくりした」

シルナ、魔導部隊隊舎の、吐月の私室を突撃。

お前な。
 
せめてノックをしてから入れ。

失礼だろうが。

とりあえず、シルナの後頭部をひっぱたいておいた。

「痛いっ」

「うるせぇ」

謝れ吐月に。びっくりさせて。

「が、学院長…?羽久さんも…。どうしたんですか?」

吐月は、驚いて振り向いた。
 
すると。

吐月の傍らで、ハンカチの上に寝そべっていた、手のひらサイズの黒いコウモリのような生き物が。

パッと起き上がって、その小さな羽根をパタパタ羽ばたかせながら飛び上がった。

「何だ何だ。事件か?俺様の出番か?」

おまけに、勇ましく喋った。

初見の人は、大抵「コウモリが喋った!?」と驚くし。

俺も最初は、そう思ったものだが。

今は、もう慣れた。

このコウモリ、たかがコウモリと侮ることなかれ。

そもそも、コウモリではない。

吐月と契約している、冥界最上位の魔物。

名を、ベルフェゴールと言う。

吐月の相棒だ。

「事件じゃないけど…退屈だから、吐月君に会いに行こうと思って!」

「…」

屈託のない笑顔、シルナ。

を、見て、しばし呆然とする吐月。

…ごめんな。マジで。

「あ、そ、そうなんですか…。何か、特に用事がある訳では…」

「ない。ごめん。シルナの我儘だと思って、ちょっと付き合ってくれないか。邪魔なら蹴飛ばして帰るから」

「いや、邪魔だなんて…。大丈夫ですよ」

だって。良かったなシルナ。

蹴飛ばされずに済んだ。

しかも。

「丁度良かった。ちょっと、学院長先生と羽久さんに、見せたいものがあったんです」

と、吐月。

「…?見せたいもの?」

「はい。…これです」

そう言って、吐月が左手を差し出した、その瞬間。

部屋の中の空気が、一瞬にして冷気を帯びた。

「…!!」

その光景に、俺もシルナも、思わず目を見張った。
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