神殺しのクロノスタシスⅢ
吐月のもとを訪ねた後。

「あっ」

「あれ、学院長?」

「どうした、二人して」

廊下の曲がり角で、魔導部隊大隊長二人組と鉢合わせた。

エリュティアと、無闇である。

エリュティアは、イーニシュフェルト魔導学院の卒業生。

こちらもなかなか珍しい、探索魔法を得意とする魔導師だ。

エリュティアのことを、たかが探索魔法?と侮ると。

痛い目を見るだけでは済まないということを、先に忠告しておこう。

探索魔法が得意というだけで、魔導部隊の大隊長をやっている訳ではない。

一方、もう一人の無闇。

彼は、シルナの教え子ではないが…。

「何々?何か事件でも起きたの?」

ゆらり、と。

無闇の背中から、髪の長い女性が宙に浮いた。

まさか幽霊…!ではない。

彼女こそ、無闇の持つ魔導書の化身。

『死火』の写し身なのである。

その魔導書は、『禁忌の黒魔導書』にも匹敵する力がある。

一時期は、神を殺せる魔導書だと噂されていたが。

『死火』と、その守り人である無闇の実力を見れば。

神を殺せるなどという、その眉唾な噂も…あながち間違いではない、と思うことだろう。

俺も思ったから。

そして『死火』の化身、彼女の名前は月読(つくよみ)と言う。

「事件じゃないんだけどね〜。退屈だったから、遊びに来ちゃった」

「な〜んだ、事件じゃないのか〜」

何故か、ちょっと残念そうな月読である。

思ったより好戦的なんだよな、この子。

可愛らしい見た目に反して。

それだけ、自分と自分の相棒に自信がある、ということなのだろう。

実際、誇るに足るだけの実力はあるし。

それにしても。

「最近、二人セットでいることが多いな」

エリュティアと無闇のことである。

この二人がペアを組むようになったのは、『カタストロフィ』と一悶着あったときからだ。

そして、未だにそのペアは解消されていない。

「シュニィ隊長から受けた任務なんです」

「任務?」

「ジャマ王国にある『アメノミコト』の本拠地を探ることです」

「!」

『アメノミコト』の…本拠地だって?

「あ、一応秘匿任務なので、これはここだけの話ということで…」

「わ、分かった」
 
「まぁ、この二人は渦中真っ只中の人間だから、殊更隠す必要はないと思うがな」

と、無闇。

秘匿任務を打ち明けてくれたってことは、それだけ信用してくれてるってことだ。

勿論、他に漏らすつもりはない。

「『アメノミコト』の本拠地か…。確かに、把握出来ていたら、有益な情報になるね」

シルナが言った。

言われてみれば、そうだな。

『アメノミコト』は俺達の居場所を知ってるのに。
 
俺達は、『アメノミコト』の居場所どころか、組織の本拠地すら知らないのだから。

情報戦においては、こちらが負けている状態。

それを憂慮して、シュニィはエリュティア達に指示を出したのだろう。

『アメノミコト』の居場所を、探すようにと。
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