神殺しのクロノスタシスⅢ
「それで…進捗状況はどう?見つかりそう?」

「…残念ながら。さすがに暗殺者集団とあって、ガードが固くて…」

…まぁ、さすがにな。

暗殺者組織が、あっさり身バレしたんじゃ、暗殺者の名が廃るってもんだ。

「先程も、学院長先生達が『終日組』と戦ったという場所に行ってきたんです」

え、あの森の奥に行ったのか?

「あぁ、だから無闇君が付き添ったんだね?」

「あぁ。戦闘はとっくに終わったとはいえ、完全に危険が去ったとは言い難いからな。念の為、俺も同行した」

成程ね。

狡猾な『アメノミコト』のこと。

戦闘が終わった後も、何かトラップの一つでも仕掛けていたとしても、おかしくない。

それで、戦闘力に優れる無闇とペアで、行動していた訳か。
 
「折角無闇さんにも同行してもらったのに、あの場にもほとんど手がかりがなくて…。本当に、上手に『痕跡』を消してます」

「そっか…」

エリュティアの探索魔法は、その場に残った指紋や、戦闘の傷跡だけではなく。

戦闘空域に残る、人々の残留思念のようなものまでもを『痕跡』として、それを足がかりに、当該人物の行方を探す。

エリュティアの前に、完璧な犯行は不可能、という訳だ。

これが素人なら、もう警察も探偵も要らない。

エリュティア一人で、全部解決してみせることだろう。

しかし…今回は、相手が悪い。

「済みません…。お役に立てず」

「そんなことないよ。相手は腐っても『アメノミコト』の暗殺者。自分が死んでも、手がかりを掴ませるようなヘマはしない」

シルナの言う通りだ。

「気配を消すのも痕跡を消すのも、暗殺者の基本だからな。それに、こっちにはエリュティアが…探索魔法のプロがいることは割れてる」

『アメノミコト』の奴らも、エリュティアを最大限に警戒しているのだろう。

だからこそ、決してエリュティアに『痕跡』を掴ませまいと、対策してきている。

「そんなに自分を卑下することはない。それでも、少しは手がかりを得られてるんだろう?」

と、無闇。

「あ、はい…。僅かではありますか、『痕跡』を見つけました。それを辿って、少しでも『アメノミコト』に近づく情報を探るつもりです」

…恐るべし、我らが探索魔法のプロ。

気配も痕跡も、隠しきってなんぼの暗殺者集団から。

それでも、僅かながらでも手がかりを掴んで帰ってきている。
 
手ぶらでは帰らん、という強い意志を感じる。

「それと、彼らは国境を越えてきているはずなので、国境付近にも『痕跡』が残ってないか、探してみるつもりです。何か残っていないか…望みは薄いですが…」

「いや…やれることは、何でもやっておいた方が良い。無駄なことなんてないよ」

シルナの言う通りだ。

相手が相手だ。やれることは、全てやっておいて損はない。

「国境沿いは危険だ。俺も同行する」

と、すかさず無闇が言った。

エリュティアが聖魔騎士団にとって、得難い人物だと知っての申し出だ。

勿論エリュティアは、探索魔法以外の魔法にも優れている。

だが、攻撃特化型の無闇がいてくれれば、百人力だろう。

皆頑張ってるんだなぁ。

頑張ってないの、シルナくらいだよ。

「ありがとう。悪いな、迷惑かける」

シルナに代わり、俺が二人に感謝の意を告げる。

しかし。

「気にするな。好きでやってることだ」

「大丈夫です。学院長先生と、母校の為ですから」

二人共、この返事。

本当に、シュニィや吐月達と言い。

俺達は、良い仲間に恵まれたものだ。
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