神殺しのクロノスタシスⅢ
…あれ?

俺、今…隣にシルナいたよね?

いきなり消えたんだけど。

何?瞬間移動?

まぁあいつ器用だからな。色んな魔法使えるし。

多分何処かで生きてるだろう。

それよりも。

俺は、こっそりと扉の破壊された訓練場を盗み見た。

すると、中には。

「ばっ…誰がドア壊せっつったよ!」

「だって、ジュリスが魔導人形を壊すなよ、って言うから。魔導人形は壊れてないよ、ほら」

「自慢げに言うな!扉なら壊して良いなんて一言も言ってねぇ!あと魔導人形も、壊れてはないけど半壊はしてるだろうが!」

…何やら、賑やかな訓練場である。

「良いか、お前はな。もう何度も口を酸っぱくして言ってるが、お前の魔法は大雑把過ぎる!」

ジュリスの怒号が、訓練場に響き渡った。

しかし。

「えっ」

「…何だよ。ようやく分かったか?」

「ジュリス、口の中酸っぱいの?飴舐める?」

ガクン、とジュリスが倒れかけた。 

「そういう意味じゃねぇ!比喩だよ、ひ・ゆ!」

「…ひゆ?」

「例え話ってことだ!何度も何度も繰り返し忠告することを、口が酸っぱくなる、って言うんだ」

「へぇ〜…。でも、何で、何度も言うと口が酸っぱくなるの?」

「え?…それは…」

…何でだろうなぁ。

俺にも分からんよ。

言い過ぎて口の中が酸性になった、とか?

「…あぁもう!そんなことはどうでも良い!それよりお前の魔法だ!良いか、お前の魔法はな、大味過ぎる!」

「えへへ」

「褒めてるんじゃねぇし!いやそれも良いことだけど!でも毎回毎回、お前の攻撃の波動で、俺まで吹っ飛ばされそうになってるんだからな!?」

「えっ。ジュリス吹っ飛ばされちゃうの?」
 
「あぁ。お前の魔法で、何回か敵と一緒に星になりかけたよ、俺は」

お互い、じーっと見つめ合う二人。

「だからお前はもっと訓練して、もう少し繊細な魔法を使えるようになれ」

「1000歳!?それは無理だよジュリス。1000歳って言ったら、私が今いくつだっけ」

「1000歳じゃなくて繊細!神経使って魔法使えってこと!」

「…?」

きょとん、と首を傾げるベリクリーデ。

業を煮やしたジュリスは、分かりやすく説明した。

「もっと出力を弱めろ。例えばそこの魔導人形、俺はお前に、『右腕だけ破壊しろ』って言ったよな?」

「うん」

「右腕どころか、右半身吹き飛んでる上に、その余波でドアまで吹き飛ばしてるんだけど、それについてはどう思う?」

二人共気づいてないみたいだけど。

そのドアと一緒に、シルナも吹き飛んでますよ。

そこのところ、ベリクリーデはどう考えているのか。

少しは反省しているのかと思いきや。

「…頑張ったね!」

開き直った。

ジュリスは、またしてもガクンと膝をついた。

…駄目だな。

全然分かってない。
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