神殺しのクロノスタシスⅢ
「大丈夫?ジュリス。貧血?」

「あぁ…。お前にどう教えたら良いのか分からな過ぎて、目眩がする…」

「頑張って、ジュリス。ずっと訓練してたらいつか身体が覚えるもんだ、ってジュリスが言ってた」

「俺が目眩に慣れる前に、お前が早く繊細な魔法を習得してくれ」

…なんつーか。

色々ズレてるよな。ベリクリーデ。

よく相手出来るよ、ジュリス。

俺だったら、もう諦めて匙を投げるところだが。

ジュリスは、

「…分かった。分かったよ。もう一回やろう」

「目眩の訓練?」

「魔法の訓練だ馬鹿。丁度左半身だけ残ってるから、ベリクリーデ、あの魔導人形の、左腕だけ壊してみろ」

「…んー…」

どうせ、右半身が吹き飛んで半壊した魔導人形。

こうなったら、全壊しても良いという覚悟で、ジュリスは指示をした。

が。

「難しいなぁ。難しいよジュリス」

「そんなに難しいことじゃないだろ。いつもの魔法の…1000分の1くらいの出力で、軽くポキッと折るくらいのつもりでやれば良いんだ」

さっきのは、軽くポキッ、どころか。

漫画だったら、「ドォォォォォン!!!」くらい大袈裟な効果音つけても良かったよ。

「ジュリスは出来るの?」

「あん?」

「ジュリスにお手本見せて欲しい。ジュリスも出来る?」

「お前、馬鹿…。俺様には楽勝に決まってるだろ。何なら、左腕じゃなくて、左手の小指の先だけ壊しても良いぞ」

「本当!?じゃあ見せて」

「あぁ。ほらよ」

ジュリスは、軽く杖を振った。

すると、魔導人形に小さな衝撃が走り。

宣言通り、身体半分になった魔導人形の左手の小指の先っちょだけが、消えてなくなっていた。

さすが、と思う。

ベリクリーデはあまりにも極端だが…。ジュリスは、その対極にあると言っても良い。

魔導人形の片腕だけ狙って壊せ、と言われれば、魔導部隊の魔導師なら誰でも出来るだろうが。

片腕の、手のひらの、小指の第一関節だけを的確に壊せ、と言われれば。

恐らく、大抵の魔導師はお手上げだろう。

狙撃じゃないんだから、それほど小さな的を、小さな衝撃で壊すには、相当熟練した魔導師でなければ出来ない。

まさに職人芸だ。

シルナやクュルナ、シュニィみたいな繊細な魔法が得意な魔導師なら、可能だろうが。

正直、俺も自信がない。

指一本狙え、なら何とかなるんだがな。

だが、ジュリスは、まるでお茶の一杯でも飲むくらいの気軽さで、簡単にやってのけた。

その点、さすがジュリスだと思う。

繊細で、熟練した、応用の効く汎用性の高い魔導師。

おまけに彼は、咄嗟の判断力や、危機察知能力にも優れている。

こればかりは、場数の違いだろうな。

どんな場面でも、状況を的確に把握し、自分の取れる最善の選択をする。

手堅くて、正攻法も奇策も練り合わせた戦術を取る。

だから強い。

正直、今すぐジュリスと一対一で相手しろ、と言われたら…勝つ自信はない。

勝てるかもしれないが、負けるかもしれない。

良いところ五分、ってところか。

そんな繊細で堅実な魔導師だからこそ、ベリクリーデみたいな大雑把な…と言うか。

破壊的な魔導師は、我慢ならないのだろう。

「わー、凄いね!ジュリス。強いね〜」

「あぁ、はいはいどうも」

「私も、あれ出来るかな?」

「いや、あれは難しいから…。まずお前は、片腕だけ狙えるようにな、」

「私も指先だけ狙うね。えいっ」

「あ、こら待っ、」

ちゅどーん。

ベリクリーデの杖から、指先どころか、命が吹き飛びかねない出力の魔法が飛び出した。
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