神殺しのクロノスタシスⅢ
粉砕された魔導人形の破片を、ジュリスはすんでのところで、床にダイブしてかわしたが。

吹き飛んだ魔導人形の左半身が、訓練場の窓を突き破って、ばびゅーん、と空の彼方に飛んでいった。

…さっきより、出力上がってね?

危うく、ジュリスまで吹っ飛びかねなかったし。

それなのに。

「あれー」

魔導人形と訓練場を同時に破壊した張本人は、この反応。

あれーじゃねぇし。

「お、おまっ…ばっ…」

見事な危機察知能力で、弾丸のような破片をかわしたジュリスは、呆然と訓練場の壁を見つめていた。

ベリクリーデが破壊した魔導人形の破片が、壁にめり込んでいた。

丁度、ジュリスが立っていた位置だ。

咄嗟にかわしていなかったら、今頃あの破片は、ジュリスの腹部を貫通していたことだろう。

…ジュリス。

お前、命懸けの訓練してるんだな。

「ゆ…指どころか、結局左半身ごと吹き飛ばしてるじゃないか!アホか!」

「指だけ、指だけって思うと、ついうっかり力んじゃった」

ついうっかり、で殺されかけるジュリス。

命がいくつあって足りないな。

シルナなんて、そのついうっかり、でお星様になってるし。

「指にこだわるな!腕!腕だけで良いんだよ!俺を殺す気か!」

「分かった。次は頑張るから」

「昨日一昨日どころか、一週間前にも同じ台詞を聞いたぞ?」

「本当?口癖なのかなぁ。じゃあ、明日も明後日も一週間後も、同じ台詞を言うね」

「あぁぁぁ皮肉も通じねぇ!」

何て言うか…もう、うん。

…ドンマイ、ジュリス。

「とにかくもう一回だ!良いか!腕だけを狙うんだぞ!いい加減、俺と訓練場を破壊するな!」

「分かったー」

絶対分かってない。

成程、ジュリスとベリクリーデが、訓練場を貸し切ってる理由が分かった。

ベリクリーデを、訓練場に入れたが最後。

ジュリス以外の人間を入れたら、死者が出る。

…そういうことだったのか。

なら、邪魔するのは悪いな。

シルナ死んだし。

「ジュリス…強く生きろよ」

俺は、こっそりとそう言い残し。

ついでに、何処かに吹き飛んだシルナも置き去りにし。

全てを見なかったことにして、イーニシュフェルト魔導学院に帰った。
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