神殺しのクロノスタシスⅢ
学院に着く頃には、そろそろ空が暗くなり始めていた。

一人で学院に帰ると、校門付近で、ジョギング中の令月と鉢合わせた。

こんな時間まで、精の出る奴だよ。

「令月。まだ走ってるのか?」

「あ、羽久お帰り」

喋りながらも、令月はその場で駆け足を続けていた。

本人曰く、走っている最中にいきなり止まるのは、身体に悪いらしい。

止まるときはゆっくり、歩調を穏やかに、「走る」から「歩く」に変えていくのがベストらしい。

「そろそろいい加減にして、もう学生寮に帰れよ」

「うん。でも」

でも?

「…学院長は?一緒に行ったんじゃないの?」

あぁ…。うん。

あいつはなぁ…うん。

「お星様になった」

「…お星様?」

「あぁ、見てみろ令月」

空には、丁度星が点々と見え始めていた。

その中の一つを指差した。

「あれがシルナだ」

「そっか…。僕達を見守ってくれてるんだね」

「そうだ。夜空を照らしてくれてるんだよ」

「ありがとう。『八千歳』にも伝えておくよ」

「あぁ。そうしてくれ」

シルナは、尊いお星様になったってな。

で、その後。

学生寮に帰っていく令月の背中を見送り。

俺は、校舎内に入った。

すると。

「よー、イレース」

「あら、羽久さん…。あなた一人ですか?アホの学院長は?これ、学院長の署名が要る書類なんですけど」

イレースは、シルナの署名が必要な書類の束を持って、待ち構えていた。

しかし。

「シルナは…お星様になったよ」

「何ですって?星でもゴキブリでもムカデでも何でも良いから、署名はして欲しいんですけど。全くこれだから…」

イラつくイレースである。

更に。

「何々?学院長が星になったんですか?」

ナジュがやって来た。

「あぁ」

「そうですか〜。良いなー僕も星になりたい。あっ、そうだ。じゃあ今のうちに、学院長の秘蔵のお菓子摘んでこよーっと」

…今のところ。

学院内の誰一人、シルナが星になったことについて、言及する者、なし。

後で聞くところによると、令月から「学院長はお星様になったらしいよ」と告げられたすぐりは。

驚くでも動揺するでもなく、

「へぇ〜」と、一言言っただけだったらしい。

さようなら、シルナ星。

美しいその夜空から、俺達を見守っていてくれ。
< 472 / 822 >

この作品をシェア

pagetop