神殺しのクロノスタシスⅢ
「はいっ、じゃあさっきのテストを返すよ〜」

シルナは、令月とすぐりそれぞれに、解答用紙を返却した。

忘れてはいけない。

この二人は、他の生徒が当たり前のように受けてきた、小学校の授業をほぼ受けていない。

当然だ。彼らは、ルーデュニアの子供達が小学校で学んでいる間。

暗殺に必要な技術だけを、ひたすら叩き込まれていたのだから。

普通に喋ってる分には、あまり困らないが。
 
たまに、常識として知っていて当然の知識を、知らないことがある。

ついでに言うと二人共、イーニシュフェルト魔導学院の編入生なので。

令月は1年次の授業全部、2年次の授業ほとんどを受けておらず。

すぐりもまた、1年次の授業は全部すっぽ抜けている。

その点、他の生徒と差がついている。

故に、この夏休みを利用して、少しでもその穴埋めをしようと。

シルナの思いつきで、抜き打ちテストを行ってみた。

結果。

「お、令月満点じゃん」

令月の解答用紙は、バツが一つもない。綺麗な百点満点。

凄い。

「やるじゃないか、お前」

と。

俺が褒めたのが、間違いだった。

「…は?」

すぐりが、超不機嫌顔でジロリと令月を睨んだ。

対するすぐりの点数は…。

76点。微妙。

いや、かなりの高得点ではあるのだけど、令月の満点を見た後では、やっぱりどうしても。

「へーそーふーん。ご立派な『八千代』さんは満点ですかー、そうですかー」

めっちゃ不機嫌。

「い、いやすぐり君。二人共それぞれ問題が違うから。すぐり君の方は、ちょっと難しいかな〜と思う問題が多かったから。ね?」

シルナが、慌ててフォローを入れる。

そう。テスト自体の難易度が、二人共違うから。

すぐりの方が、ちょっと難しいから。

…ちょっとだけどな。

「いーですよ別に。どーせ俺は『八千代』より格下ですよ。ふん」

あぁ、思いっきりヘソ曲げてる。

子供だ。子供なんだけど。  

「いやいやそんなこと。その問題で70点以上取れるなら充分…」

シルナが、何とか宥めようとするも。

「まぁすぐりさん、園芸部にうつつを抜かしてばかりで、放課後学習会もスルーでしたしね〜」

馬鹿ナジュが、余計なことを言った。

更に。

「試験問題に差があろうと、点数は点数です。約四分の一ほども点差が開いたのには、それなりの理由があるということですね」

元ラミッドフルスの鬼教官イレースが、またしても容赦のない一撃を加える。

そ、そりゃそうだけど。

確かにすぐりは、令月に比べれば、あんまり勉強してる様子はなかったけれど。

でも部活を楽しんでるみたいだったし、これはこれで年相応で良いことだと、俺は思っていたのだが。

実際、周囲の環境に溶け込む適応力に関しては、令月よりすぐりの方が上だった。

だから、学力なんてそんなに気にすることはな、

「…」

…無理そう。

すぐりは、般若みたいな顔で令月を睨んでいた。

一方の令月は、何が悪いのか分からないみたいで、きょとん顔。

うん。お前は別に悪くないから。 

すると。

すぐりは、黙々と解答用紙を折り始めた。

…?

ものの数分で、解答用紙で作った手裏剣が完成。

すぐりはその手裏剣を、思いっきり振りかぶって令月に投擲。

解答用紙の手裏剣が、令月の額にペチンと当たって、ひらひらと床に落ちた。

令月、相変わらずきょとん顔。

そんな令月に、すぐりは。
 
「ふっ、ざまぁ」

と勝ち誇ったように言って、そのままスタスタと学院長室から出ていった。

…。

それを見たナジュが、一言。

「…喧嘩の仕方が幼稚過ぎて、草生えるんですけど」

「生やすな」

本気で乱闘始められるよりマシだったと思え。
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