神殺しのクロノスタシスⅢ
それ以降。

すぐりは、やたらと令月に突っかかるようになった。

いや、もとからその傾向はあったが。

例えば。

 

「…すぐり、何やってんの?」

「え?カエルの卵、不味そうだから『八千代』に押し付けてる」

「…」

現在は夏休み中。

夏休みにつき、学校の食堂が閉まっているので。

夏休みの間だけ、お弁当を取っているのだが。 

すぐりは、自分の嫌いな食べ物を、令月の皿に放り投げていた。

え?カエルの卵が弁当に入ってるの?とドン引きした、そこのあなた。

別にカエルの卵なんて入ってない。

グリーンピースだ。

「…僕も、カエルの卵嫌いなんだけど…」

令月が、ポイポイ投げられるグリーンピースを前に、しょんぼりと言った。

大丈夫だ。俺もカエルの卵は食べられない。

そしてそれは、グリーンピースだ。

すると。

「え?君カエルの卵も食べられないの?お子様だなぁ〜」

と、嘲笑うすぐり。

お前は、たった今自分がしたことを覚えているのか。

自分も食べられないんだろ。
 
あと何度も言ってるが、それはグリーンピースだ。

と、まぁこんなことがあったり。

他にも。






「はいっ、二人共〜。今日のおやつはラズベリーチーズケーキだよ〜」

と、頭の中お花畑のシルナが、午後のおやつに二人を招いた。

チーズケーキの上に、ラズベリーが乗っかっている。

ケーキの種類をそれぞれ分けると、絶対喧嘩になる(主にすぐりが)ので、今日は二人共同じ。

二人共同じケーキなら、喧嘩も勃発しないだろう。

と、思っていたのが間違いだった。

「…『八千代』。ちょっとそれ貸して」 

何を思ったか、すぐりは令月のお皿を指差した。

「…?良いよ」

令月は、素直にチーズケーキの乗った皿を、すぐりに渡す。

するとすぐりは、令月のチーズケーキの上に乗っているラズベリーを。

ひょいぱくひょいぱくひょいぱく、と強奪。

「はい、もう良いよ」

「…」

…こいつ。

ラズベリーだけ掻っ攫って、チーズケーキの部分だけ返しやがった。

悪魔の所業。

絶対怒っても良いと思ったが、令月はラズベリーを失ったチーズケーキを見下ろし。

「…もぐ」

無言で、チーズケーキの部分だけを食べていた。

俺とシルナは、あまりの衝撃に呆然としていた。
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