神殺しのクロノスタシスⅢ
令月とすぐりの、謎のクッキングは続く。

現在の、フライパンの状況を説明しよう。
 
新鮮シャキシャキだったはずのリーフレタスと、生でカチコチの人参が素焼きにされ。

その上に、ハンバーグの肉ダネもどきが二つ、でろんと乗っていた。

フライパンからはジュージュー良い音がしてるが、良いのは音だけ。

フライパンの中身は、恐ろしいことになっている。

食べられないものは、入ってない。

しかし、それは決して食べ物ではない。

「で、次は何したら良いの?」
 
「焦げ目がついてきたら、裏返すって」

まだ何一つ、全然火は通っていないのだが。

強いて言うなら、リーフレタスがしんなりしてきた。
 
ここで問題発生。

「裏返す…って、どーやるの?」

「…どうやるんだろう…」

この二人は、フライ返しの存在を知らなかった。

調理室に、ちゃんとフライ返しはある。

が、二人共、その器具の使い方を知らないのだ。

故に。

「うーわ、もうグッチャグチャだよ。何これ?」

菜箸で、全部ひっくり返していた。

何これ、はこっちの台詞だ。

何だそれは。

「多分、これがルーデュニア聖王国の郷土料理なんだよ」

違うよ。

勝手に、人の国の郷土料理を作成するんじゃない。

しかも、そんな人間の食べ物とは程遠いものを。

ルーデュニア人に謝れ。

「で、蓋をして蒸し焼きにするんだって」

「ふーん」

パコッ、と蓋をする。

今更蓋をして、どうにもならないだろうと思ったが。

とりあえず、肉には火を通してもらわないと。

食中毒起こすぞ。

例え火が通っていたとしても、食中毒になる可能性はある。

しかし。

この二人、分量とか焼き時間とか火加減とか、全部適当なので。

蓋をして、強火でおよそ30秒ほど焼いた後。

「それで?」

「火が通ったら完成だって」

「ふーん」

蓋を開けるすぐり。

はえーよ。

全然まだ火、通ってないよ。生。

「火、通ったかな?」

「分かんない」

生の状態と、火が通った状態の区別がついてないらしい。

「でも、火を強くしてるから、きっと大丈夫だよ」

令月、お前何言ってんの?

「うーん。まぁ、昔の人は、レアの肉をそのまま食べてたって言うしねー」

そういうところで、無駄な知識を披露するな。

「じゃあ、あと10分たったら火を止めよう」

何処から出てきた。その数字。

絶対適当だろ。

「分かった。じゃあ10分待とう」

令月も、少しは異議を唱えろ。

…結果。

グツグツボウボウと、強火でハンバーグ(だったはずのもの)を、きっかり10分、焼いて。

出来上がった謎のブツを、皿に盛って。

令月とすぐりの、謎クッキング、終了。
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