神殺しのクロノスタシスⅢ
「何ですか。何か問題でも?」

「あるよ!何で?何で勝負なの?稽古場って言うから、てっきり一緒に訓練するのかなぁと思ったら!」

俺も思った。

それなのに、いざ来てみたら。

勝負開始!だからな。

「これは仲良しプロジェクトなんだよ?喧嘩する企画じゃないの。余計仲悪くなっちゃうよ!」

「平気ですよ。仲良く訓練しろって言ったって、絶対仲良く訓練なんてしませんし。だったらいっそ、思う存分殴り合わせれば良いんです」

イレース、過激。

更に。
 
「良い考えだと思いますよ?僕も。ほら、よく漫画とかであるじゃないですか。お互い殴り合って、その後に友情を誓い合う、みたいな」

それは漫画だ。

この二人は、そんな熱血体育会系じゃないだろ。

「いやでも、喧嘩になるのはよくな、」

シルナが、必死に止めようとするも。

「いーね、俺こーいうの待ってたんだよ〜。下らない甚平パーティーだの、訳分かんない料理なんかより、ずっとシンプルで分かりやすい」 

満面の笑みで、やる気満々のすぐり。

お前な。

その訳分かんない料理のせいで、体調を崩して寝込んでる人もいるんだぞ。

天音の尊い犠牲を忘れるな。

しかも。

「『八千歳』と試合…何だか懐かしいね」

令月の方も、まんざらではなさそう。

こいつら、元暗殺者の血が騒いでやがる。

何でも暴力で解決しようとするな。

すると、イレースが釘を差した。

「ただし、今回の試合には、条件があります」

条件?

「これは勝負であって、殺し合いではありません。よって、令月さんには木刀を使ってもらいます」

「…!」

早速、愛用の小太刀に手を伸ばそうとしていた令月が、手を止めた。

「対するすぐりさんは、毒の使用を禁止します」
 
「…えー…」

何で残念そうなんだよ。

「麻痺は?麻痺でも駄目?」

「一切の毒魔法の使用を禁止します」

イレース、妥協なし。

「ちっ…。面白くないな…」

だから、何で残念そうなんだよ。

「あくまで、互いの実力勝負とします。また、過度に相手を負傷させるのも禁止です」

成程。

あくまでも、学院の実技授業でやっている、模擬戦闘試合のルールに則ってやらせるつもりか。

それならまぁ…まだ、アリかな。

「負傷させちゃ駄目…?具体的に、何処まではセーフなの?」

「目潰しとか骨折はアリ?」

「なしに決まってるでしょうが」

当たり前だ。

「目潰しも、骨を折るのも駄目なんだ…。難しいな…」

「それで、毒も禁止なんでしょ?つまんないなぁ…」

何故か不満げな元暗殺者二人組。

お前ら、普段どんな試合してたんだよ。

聞いたら絶対胸糞悪くなるから、聞かないけど。

「危険行為と判断したら、即刻反則負けにしますから。勝ちたかったら、精々上手く立ち回ることですね」

と、言って。

「では、始めましょう」

イレースの号令のもと、令月とすぐりの仲良し(?)試合がスタートした。
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