神殺しのクロノスタシスⅢ
「…つまり、僕のせいで『八千歳』は怒ったってことだよね」

ちょっとしょんぼりな令月。

「そんな、令月君…。君のせいじゃないよ」

「でも、僕が手加減するから、『八千歳』が…」

…全く、こいつは。

「馬鹿。手加減してなかったら、今頃死者が出てるよ。だから、お前はあれで良かったんだ」

「…でも…」

「でも、は無しだ。お前はやれるだけのことをやった。そして強かった。正直、俺もお前とはやり合いたくない」

あんな、体操選手顔負けの体幹見せつけられたら。

令月の間合いに入るのが恐ろしくて、まともに戦えたもんじゃない。

「お前は悪くない。分かったな?」

「…ん」

こくん、と頷く令月。

よし。

「しかし、仲良し計画のはずが、余計不仲になっちゃいましたね」

…おい、ナジュ。

皆気づいてたけど、敢えて言わないようにしてたことを。

案の定、お前は容赦なく口にしたな。

「と、とりあえずすぐり君を宥めに…」

と、シルナが動こうとしたが。

「あー、駄目駄目。『お菓子あげたら、ちょっと機嫌直るかな』なんて、浅はかなことしか考えてない学院長じゃ、余計すぐりさんを怒らせるだけですよ」

「うっ…」

…シルナ。

お前は、この期に及んで、すぐりの機嫌がお菓子くらいで直るとでも思ったのか?

浅はかを通り越して、愚かだぞ。

「じゃ、誰が行くんです。私が叱ってきましょうか?」

「いやいや、ここは生徒に圧倒的人気を誇り、お菓子で釣ることしか考えない学院長の上を行くカリスマ教師、このナジュ・アンブローシアにお任せ下さい」

シルナに、ブスブス棘を刺していくスタイル。

「大丈夫なのか?」

「まぁ見ててくださいよ。僕も、伊達に一年以上教師やってないってところを、見せつけてあげますから」

「イーニシュフェルトで、たかが一年しか教師をやっていない者が、大した自信ですね」

「じゃあ行ってきま〜す」

逃げた。

実はこの教師陣の中で、一番教員歴が短いという事実から、逃げたぞ。 

まぁ、この際教員歴の長さは、どうでも良い。

ナジュが、なんとかすぐりの機嫌を直してくれると良いのだが…。
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