神殺しのクロノスタシスⅢ
―――――――…園芸部の畑に行ってみると。
野菜に囲まれた木陰に、すぐりさんが座っていた。
超不機嫌そうな顔で。
もう心を読むまでもない。
「私不愉快です!」って顔に書いてある。
これが自分の生徒じゃなきゃ、スルーしてるところなんだけど。
これが自分の生徒なもんで、話しかけずにはいられない。
「こんにちは。悩める少年さん」
「…何だよ」
「少年が悩んでるので、大人の僕がお悩み相談してあげようかと思いまして」
「…へー」
何、その胡散臭そうな顔。
「相手の心を勝手に読む汚い大人に、誰が相談事なんてしたいと思う?」
ひっど。
そりゃ確かに、人の心を勝手に読むけども。
心は綺麗だぞ?二割くらいは。
「分かりましたよ。じゃあ心は読みませんから、普通に話して下さい」
「全ッ然信用出来ないねー」
「汚い大人との約束ですから、大丈夫ですって」
「…余計信用出来ないんだけど?」
はいはい。冗談はこのくらいにして。
「本当に読みませんよ。今回は」
心は、言葉よりも素直だけれど。
今ばかりは、それをしてしまうと、僕の信用が失われるからな。
「読もうが読むまいが勝手だけど、俺は何も喋ることないから」
ほう。
貝のように口を閉ざすと。
子供っぽくて愛嬌があるじゃないか。
なら、子供っぽい懐柔作戦を使わせてもらおう。
「なら、あなたの代わりに僕が喋りますね」
「は?」
「これ、僕の知人の話なんですけどね」
思い返す。「知人」の話。
「その知人、育ての家族に疎まれて、ある日家を追い出されるんですが、そこでとある女性と出会いまして。思えば、それが知人の初恋だったんですが」
「…」
「後に知ったことですが、実はその女性、『冥界の女王』と呼ばれる、不死身の魔物だったんですよ。知人は、知らずにその魔物を恋人にしてたんですよ。凄い話ですよねー」
「…」
その、胡散臭そうな顔やめてって。
「で、そんなことはまぁ、二人の愛の前にはどうでも良いことだったんで、平和に生きていきたかったんですが…それがそうも行かず、時代の戦乱に巻き込まれ、そこで僕の知人、死にかけるんですね」
思えばあれが、初めての致命傷だったなー。
あの後、幾度となく致命傷を負うことになると、あのときのぼ、いや、僕の知人は知らなかったろうなー。
「するとその恋人の魔物が、知人に取り残されて一人になりたくないって、知人と融合して。結果、知人は不死身の身体を手に入れたんです」
「…」
「しかし、困ったことに、融合して一つになってしまったせいで、知人は恋人に会えなくなってしまいました。自分の中に恋人がいるのに、自分はその恋人に触れることも、声を聞くことも出来ない。それって、どんな地獄だと思います?」
「…自分の胸に聞いてみれば?」
「あはは」
聞いたら壊れちゃうから、聞かない。
「で、恋人にも会えない、死ぬことも出来ない自分に、狂ってしまった知人は、自分を殺すことの出来る人、自分を殺す方法を求めて、放浪の旅を始めることになったんですね」
「…」
「その過程で、色んな悪いことをしました。自分を殺してくれる人に、殺してもらう為に。死ねばまた恋人に会えるから。何百年もの間、知人は悪行を繰り返しながら、死ぬ方法を探して生きている。…今も」
「…」
「それって、凄く辛い人生だと思いません?」
「…あのさー」
あ、口利いた。
「その知人って、自分のことでしょ?」
「まぁ、そうなんですけど」
「じゃあ、わざわざ知人なんて言わなくていーでしょ」
「うん、そうなんですけど。でも、他人の話ってことにでもしておかないと、辛いのが余計辛くなるんで」
「…」
無言のすぐりさん。
本当に心を読んではないので、何を考えてるのか分からない。
あー心読みたい。
でも約束したから、やめとこう。
野菜に囲まれた木陰に、すぐりさんが座っていた。
超不機嫌そうな顔で。
もう心を読むまでもない。
「私不愉快です!」って顔に書いてある。
これが自分の生徒じゃなきゃ、スルーしてるところなんだけど。
これが自分の生徒なもんで、話しかけずにはいられない。
「こんにちは。悩める少年さん」
「…何だよ」
「少年が悩んでるので、大人の僕がお悩み相談してあげようかと思いまして」
「…へー」
何、その胡散臭そうな顔。
「相手の心を勝手に読む汚い大人に、誰が相談事なんてしたいと思う?」
ひっど。
そりゃ確かに、人の心を勝手に読むけども。
心は綺麗だぞ?二割くらいは。
「分かりましたよ。じゃあ心は読みませんから、普通に話して下さい」
「全ッ然信用出来ないねー」
「汚い大人との約束ですから、大丈夫ですって」
「…余計信用出来ないんだけど?」
はいはい。冗談はこのくらいにして。
「本当に読みませんよ。今回は」
心は、言葉よりも素直だけれど。
今ばかりは、それをしてしまうと、僕の信用が失われるからな。
「読もうが読むまいが勝手だけど、俺は何も喋ることないから」
ほう。
貝のように口を閉ざすと。
子供っぽくて愛嬌があるじゃないか。
なら、子供っぽい懐柔作戦を使わせてもらおう。
「なら、あなたの代わりに僕が喋りますね」
「は?」
「これ、僕の知人の話なんですけどね」
思い返す。「知人」の話。
「その知人、育ての家族に疎まれて、ある日家を追い出されるんですが、そこでとある女性と出会いまして。思えば、それが知人の初恋だったんですが」
「…」
「後に知ったことですが、実はその女性、『冥界の女王』と呼ばれる、不死身の魔物だったんですよ。知人は、知らずにその魔物を恋人にしてたんですよ。凄い話ですよねー」
「…」
その、胡散臭そうな顔やめてって。
「で、そんなことはまぁ、二人の愛の前にはどうでも良いことだったんで、平和に生きていきたかったんですが…それがそうも行かず、時代の戦乱に巻き込まれ、そこで僕の知人、死にかけるんですね」
思えばあれが、初めての致命傷だったなー。
あの後、幾度となく致命傷を負うことになると、あのときのぼ、いや、僕の知人は知らなかったろうなー。
「するとその恋人の魔物が、知人に取り残されて一人になりたくないって、知人と融合して。結果、知人は不死身の身体を手に入れたんです」
「…」
「しかし、困ったことに、融合して一つになってしまったせいで、知人は恋人に会えなくなってしまいました。自分の中に恋人がいるのに、自分はその恋人に触れることも、声を聞くことも出来ない。それって、どんな地獄だと思います?」
「…自分の胸に聞いてみれば?」
「あはは」
聞いたら壊れちゃうから、聞かない。
「で、恋人にも会えない、死ぬことも出来ない自分に、狂ってしまった知人は、自分を殺すことの出来る人、自分を殺す方法を求めて、放浪の旅を始めることになったんですね」
「…」
「その過程で、色んな悪いことをしました。自分を殺してくれる人に、殺してもらう為に。死ねばまた恋人に会えるから。何百年もの間、知人は悪行を繰り返しながら、死ぬ方法を探して生きている。…今も」
「…」
「それって、凄く辛い人生だと思いません?」
「…あのさー」
あ、口利いた。
「その知人って、自分のことでしょ?」
「まぁ、そうなんですけど」
「じゃあ、わざわざ知人なんて言わなくていーでしょ」
「うん、そうなんですけど。でも、他人の話ってことにでもしておかないと、辛いのが余計辛くなるんで」
「…」
無言のすぐりさん。
本当に心を読んではないので、何を考えてるのか分からない。
あー心読みたい。
でも約束したから、やめとこう。