神殺しのクロノスタシスⅢ
「じゃあ、第二段」

「は?」

「これは昔々の話なんですけど、とある国の、とある王家で、とある王子様がいました」

「…羨ましー」

白馬の王子様になりたいすぐりさんにとっては、羨ましいかもね。

でも、僕は全然羨ましくない。

この話の続きを知っているから。

「しかしその王子様は、国を統治する立場にあったが故に、一国の政府、王権を守る為に、あらゆる人間の、あらゆる汚い面を見続けて育ちました」

「…」

「おまけにその王子様、好きな女の子が出来て、その人と結婚したかったのに、身分違いだと言われて周囲の反対を受けます」

白馬の王子様になるのも大変だが。

格好良く白馬に乗って、美しいプリンセスを迎えに行くのも、なかなか大変である。

「結局王子様は、王子様であることをやめ、マフィアに入ってまで、好きな女の子と結婚しました」

「…」

「随分血に塗れた王子様ですよね。まぁ、王子やめたんですが。王子に生まれたことなんて、王子様にとっては嬉しいことでもなんでもなかったんですよ」

「…でも、その元王子様は、好きな女の子と結婚出来て、幸せだったんでしょ?」

「そうですね」

「なら良いじゃん」

確かに。

そんな幸せな人生を送ったから、その報いが僕に回ってきてるのかなぁ。

「じゃあ、次。第三段」

「まだいるの?」

「まだいます。今度は、とある国のとある貴族の家に生まれた、とある青年のお話」

「…今度は何?」

「その青年は、生まれたときから国を守る軍隊に入って、立派な勲章を得る為に生きることを強制されていました。その理由は、彼が生まれた家が代々、そういう家だったからです」

「…」

「だから青年は頑張りました。血を吐くような努力をしました。だって、その立派な勲章を手に入れないと、お前に生きる価値はないと言い聞かされて育ちましたから。死ぬほど頑張って、心が壊れる寸前まで頑張って、それでようやく、彼はそれまでの努力が認められ、立派な勲章を手に入れました」

「…じゃー良かったじゃん」

ここまで聞けば、まぁ良い話…おめでたい話なんだけど。
 
ここからが本番。

「しかし、彼はその後、当時の女王様…彼が仕えていた主君ですね。その人の私情の為に、無実の罪を着せられ、貴族の名も、立派な勲章も、命以外の全部を奪われてしまいます。自分が信じていたものに、裏切られてしまったんですね」

「…それは気の毒だね」

「でしょ?そのせいで青年は、精神を病み、自殺を試みます。まぁ、寸前で病院に運び込まれて、生き延びたんですか…生き延びたところで、青年にはもう、生きる意味が分かりません」

ずっと、立派な勲章を得る為に、それだけの為に、血を吐くような思いをして生きてきたのに。

いざ勲章を手にしたら、信じてきたものに裏切られ、全てをなくしてしまった。

廃人になるのも当然だ。

「で、その青年はその後、どうなったと思います?」

「そのまま病院で自殺?」

「だったら、世界は平和だったでしょうね〜」

でも、そうはならなかったのだ。

闇が、彼を絶望に突き落とし。

その闇が、彼を生かしたから。

「彼は、自分を不幸に突き落とした奴らへの復讐心で、再び立ち上がりました」

「…」

「光の世界で立ち直り、光の世界で静かに生きていくことを放棄し、闇の世界に堕ちて、闇の世界で、地獄の底で華を咲かせることを選びました。血塗られた、復讐の道を行くことを決めました」

「…それ、どーなったの?」

「復讐は果たしましたよ。でも、それで彼が光の世界に帰ることは出来ません。彼は一生、血に塗れ、暗くて黒い闇の中で、死神と呼ばれながら生きていくんです。永遠に、陽の光を浴びることなく」

「…」

さて、そんな生き方はどうかな。

すぐりさんの心に、響いただろうか?
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