神殺しのクロノスタシスⅢ
「!?」

気づいたときには、僕の下に『八千歳』がいなかった。

いつの間に。

「あぁ…。危なかった…」

聞き覚えのある声がして、僕は驚いて振り向いた。

そこには。

杖を向ける羽久と、

「ふぅ、間一髪だったね」

「全くですよ」

「無事で良かった…」

シルナ学院長、不死身先生、そして天音先生の三人がいた。

おまけに学院長は、ボロボロになった『八千歳』の身体を抱いていた。

殺されると思っていた『八千歳』は、いつの間にか学院長の腕の中にいることに気づき。

「…!誰だ、お前…!」

抵抗しようとしたが、しかし。

「はいはい、暴れない暴れない。ちょっと拘束させてもらうねー」

「!?」

学院長が、杖を一振りすると。

『八千歳』の両腕と両足に、光の枷のようなものがつけられた。

「な…何だこれっ…」

「シルナ特製手錠。簡単には取れないからね。暴れないで」

そ、そんな便利な魔法が。

いや、そんなことより。

…何で。

何でここに…この人達が。

「ふふふ。思うことは色々あるようですが」

不死身先生…改め、読心野郎が。

不敵に笑った。

「あなたは自分で思ってるより、詰めが甘いってことですよ」

「…!」

詰めが…甘いだと?

それってどういう…。

あ、駄目だ失血で考えがまとまらない。

それとも毒か?

「その前に、まず治療が先」

読心野郎を制して、天音先生が駆け寄ってきた。

もう死ぬのを待つしかない、と思っていたのに。

天音先生の回復魔法のお陰で、みるみるうちに傷口が塞がり始めた。

でも、毒の方はどうだろう。

毒がどうにもならなかったら、いずれにしても僕は死ぬが…。

「死ぬと思ってるみたいですよ、彼」

この野郎。

死の間際まで、心を読んでくる。

しかし。

「大丈夫だよ」

天音先生が、僕の手をぎゅっと握った。

「絶対死なせない。安心して」

「…」

死なせない…って言ったって。

駄目だ。視界が霞んできた。

やっぱり死ぬのかな。

「死にませんって。そんな簡単に死ねるなら、僕だって苦労してませんよ」

今際の際で、人生最期に聞くのが、あの読心野郎の声かよ。

心の中でそう呟いて、僕は意識を失った。
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