神殺しのクロノスタシスⅢ
第一部3章
…次に、目が覚めたとき。

僕は、イーニシュフェルト魔導学院の医務室にいた。

「…生きて…る?」

もしや、身体が死体として横たわっているだけで。

魂だけ、幽霊としてふわりと浮き上がるんじゃないかと思ったが。

腕を上げると、ちゃんと自分の身体もついてきた。

…生きてそう。

すると。

「目が覚めた?」

「…天音先生…」

白衣姿の天音先生が、そこに立っていた。

「良かった。意識が戻ったみたいだね」

「…」

つまり、僕は。

生き残った、ってことだ。

よくもまぁ、あの状況から生還出来たものだ。

死んだと思ったから。毒を受けたとき。

「解毒…出来たんだ」

「うん。ちょっと時間かかっちゃったけど。毒は完全に身体から抜けたから。もう大丈夫」

「…」

回復魔法専門魔導師、恐るべし。

「今…今は何時?」

「夜だよ。深夜。あれからもう、12時間以上たってる」

本当に凄いね。

たった12時間で、体内の毒全てを解毒するなんて。

『アメノミコト』もびっくり。

もっとびっくりしてるのは、多分『八千歳』だろうな。

あ、そうだ。

「『八千歳』は…?」

「『八千歳』?」

「僕が戦ってた相手…」

「あの子、そんな名前だったんだ」

本名ではないと思うけど。

僕も本名は知らない。『八千歳』はただのコードネームだ。

それより。

「『八千歳』は…生きてるの?」

もう、始末しちゃった?

それとも自決したか?

「生きてるよ。学院長室にいる。君より軽傷だったから、シルナ学院長が治しちゃった」

…そうなんだ。

何故だか、ホッとしている自分がいた。

僕は、『八千歳』を殺そうとした。

殺すつもりだった。

でも、殺したかった訳じゃない。

生きているのなら、良かった。

あぁ、でも『八千歳』にとっては…。

あのまま僕に殺されていた方が、幸せだったのかもしれない。

「…会える?会いに行って良い?」

「駄目」

却下された。

「令月君がそう言うと思って、学院長先生から伝言を預かってるよ」

「伝言…?」

「『一つ、怪我が治るまでは大人しくしてなさい』」

はい。

一つってことは、二つ目もあるってことだな。

「『二つ、お説教はその後です』以上」

はい。

やっぱり説教されるんだ。

「そんな訳で、僕が見張り役。出血も酷かったし、毒のせいで身体も弱ってる。少なくとも、あと丸一日は大人しくしてないと駄目」

「…長いなぁ…」

「長くても、我慢しなきゃ駄目。逃げ出さないように見張ってるからね。分かった?」

「…それ、我慢したら、後で『八千歳』に会わせてもらえる?」

「さぁ。我慢出来たら、考えてくれるんじゃないかな?」

…おのれ。

無理矢理抜け出したいところだが、天音先生がぴったりくっついて、にこにこと見張っているせいで、それも出来そうにない。

それどころか。

「もし逃げ出したら、今度は学院長に、さっき使った魔法の枷で、ベッドに縛ってもらうから」

「…おのれ…」

最悪の脅しだ。

今度、「新しい保健室の先生に脅された」って、魔導教育委員会に訴状を出してやろう。


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