神殺しのクロノスタシスⅢ
自己主張が強過ぎる。

自意識過剰。

後者はまぁ言い過ぎだとして、両ペアの戦い方を見ていれば、何となく言いたいことは分かる。
 
「君達、根本から『自分が決めなきゃ。自分が何とかしなくちゃ』って思い込んでない?」

「…!」

図星のようだ。

特に、前衛の令月は。

「だから、お互い手を変え品を変え、『自分が』現状打破しようと動く。で、二人共自己主張し合って、それがぶつかり合って、自滅してる。そのパターンが多過ぎ」

と、キュレム。

更に、ルイーシュも。

「なーんで自分が決めたがるんですかねぇ。とどめを刺した方がMVP!とでも思ってるんですか?二人で戦ってる以上、勝てばどちらもMVP、負ければどちらも負け犬なんですけど」

ルイーシュの意見は辛辣だが、その通りだ。

別にどちらか一方が、派手に活躍する必要はない。

派手に活躍した方がMVP、なんて法則はない。

二人の勝利なんだから、どちらか一方のお陰で勝てた、ってことはない。

ましてやこの二人、お互いの実力は拮抗しているのだ。

片方におんぶに抱っこで勝ちました、なんて状況は有り得ない。

「令月君…つったっけ?君」

「うん」

「君ね、自分が前衛だからって、自分が決めなきゃって思い込む必要はない。自分が後ろの子を守らなきゃって思い込む必要もない。そりゃちょっとは守らなきゃならんけど、完全防御までしてやる必要はなし」

そうだな。

すぐりだって、自分の身は自分で守れる。

そして。

「そして君、すぐり君だっけか」

「…そーだけど」

「君はね、令月君のサポートをしてるつもりなんだろうけど、無闇矢鱈に糸出し過ぎ。令月君の動きやすいフィールドを作ってあげたい気持ちは分かる。けど、今はそれが逆効果になってる。もっと少なく、最小限で良い」

「最小限…」 

…まぁ。

足場になる糸がたくさんあったら、動ける範囲が広がる、反面。

多過ぎると、逆に令月が味方の糸に絡め取られかねない。
 
さっきも、すぐりの糸ですっ転んでたしな。

「そ。あとは二人共、連携が取れてないね。令月君はすぐり君の糸と、その黒い…ワイヤー?みたいなのの動きに対応しきれてない」

「…」

「すぐり君はすぐり君で、令月君の速さと柔軟さに、対応しきれてない。サポートが遅過ぎる」

「…」

ぐうの音も出ない二人。

可哀想。

「つまるところ、お互いの動きを把握しきれてないってことですね。経験不足です。パートナーなら、相手の一挙一動を即座に読み取って助け合わないと、いつまでたっても足引っ張り合うだけですよ」

ルイーシュからも追撃。
 
そして。

「あとは何より、お互いを信頼すること。例え四方八方敵に囲まれていても、コイツなら背中を任せても大丈夫、って思うくらい、信頼を築かないと。でなきゃ統率の取れた連携プレーなんて、絶対出来ないよ」

…それだよな。

この二人に、一番欠如しているのは。

別に、お互いの実力を疑っている訳ではない。

でも心の奥底で、「本当に任せても大丈夫か?」って思いがある。

だから自己主張する。自分で何とかしようとする。

で、ぶつかり合って自滅。

これを何とかしないことには、絶対に共闘なんて出来ない。
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