神殺しのクロノスタシスⅢ
―――――――…その日の早朝。

僕は、精神世界でリリスと絶賛超イチャイチャ中だった。

「ナジュ君は偉いね〜、よしよし」

恋人に膝枕してもらって、頭撫でられながら、褒めてもらえる。

男として、最高に幸せな瞬間だとは思いませんか。

最早、今生に悔い無し。

しかし、その今生が長過ぎる。

まぁ良いかー幸せだし。

「珍しいよねぇ、ナジュ君があんなに熱心に、親身になって訓練に付き合ってあげるなんて」

うん?

「心外ですね。僕は、生徒にはいつも親身になって教えてますよ?」

「でも、何だかあの令月君と…特にすぐり君って子には、結構可愛がってあげてない?」

…そうか?

まぁ、確かに…そんな気がしなくもないが。

「すぐりさんには、僕の読心魔法の訓練にも付き合ってもらいましたしねー。それに」

「それに?」

「あの二人は、間違った方向に行って欲しくない」

「…ナジュ君…」

己の行末を間違えて、心を闇に染め。

多くの人々を無闇矢鱈に殺めた、愚かな過去の僕のようには、なって欲しくない。

折角、明るい世界にやって来たのだ。

道を違えるのは、僕と学院長くらいで充分だ。

これからは、明るい世界で生きていけば良い。

と、いう僕なりの優しさである。

「…ナジュ君は、何も間違ってないよ」

リリスが、優しく僕の額を撫でた。

「他の誰が、ナジュ君を間違ってると言おうと…。私は、ナジュ君が正しいと思うよ。ナジュ君を信じるよ」

「リリス…」

これはもう、リア充イベント待ったなし。

いやぁ済みませんねぇすぐりさん。僕は、あなたの1万歩先に行く男ですから。

あなたは精々白馬の王子を頑張って下さい、と。

そう思った、そのとき。

「…ん?」

現実世界で、動きを感じた。

「どうしたの?」

「なんか呼ばれてる…」

もう、今超良いところだったのに。

誰だよ、僕を呼んでるのは。

誰かは知らないが、八つ当たりしてやろ。 

「仕方ない。現実世界に戻りますね」

「うん。また会いに来てね」

そりゃ勿論。

愛する人の為ならば、いつでも何処でも颯爽と駆けつける。
 
これが本当の、白馬の王子様だ。

って、今度すぐりさんに言っとこう。

そんな下らないことを考えながら、僕の意識は現実世界に戻った。

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