神殺しのクロノスタシスⅢ
「…どなたですかー…?」

目を覚まし、僕は目を擦りながら、ベッドから起き上がった。

「全く、今は良いところだったのに、誰が邪魔を…」

「…」

瞼を擦り、目を開けたその先にいたのは。

…羽久さん。

羽久さんが、こちらを見下ろしていた。

…何で?

「こんな朝から、何のよ…」

え。

僕は、反射的にベッドから飛び退き、壁に激突しながら「それ」を避けた。

氷魔法の刃だ。

何とか避けたものの、壁に激突して顔が痛いのと、あと。

「いっ…たぁ…」

避けきれずに、右の足首から下が千切れていた。

酷いことするよ、本当。

避けなかったら、僕は今頃ミンチになっていただろう。

最近僕、ミンチになり過ぎじゃない?

人生で最も多く挽き肉にされた男として、ギネスになりそう。

「なんてことを…するんですかね?」

このとき僕は、杖を握り締めはしたが、それを振ることはしなかった。

だって元々この人は、空っぽだから。 

空っぽの器に、薄っぺらな人格が貼り付けられているだけ。

だから、僕はそれが誰なのか分かりかねていた。

故に、それを探ろうとしていた。

でも、そんなことをせず、すぐにでも応戦するべきだった。

まぁ、応戦したところで、敵う相手ではなかったのだが。

寝起きだし。

それでも少しは、ダメージを与えられたかもしれない。

だが、そんなことは後の祭り。

「…お前は厄介だ。だから…先に潰す」

「彼女」が、そう言ったとき。

僕はその正体に気づき、しかし、そのとき僕に出来ることは何もなかった。

何故なら。

そのときにはもう、僕は挽き肉ギネス世界記録を、再び更新していたからである。

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