神殺しのクロノスタシスⅢ
「お帰り、羽久」

「…」

羽久は、無言でこちらに歩み寄った。

シュニィちゃんの話って、何だったんだろう。

もし『アメノミコト』関連なら、令月君達の前では話せないよな…。

急ぎでないなら、後で…。

「…?」

「…?『八千代』?」

「いや…」

令月君が、不思議そうな顔で羽久を見つめていることに、私は気づかなかった。

私は、信頼していたから。

羽久・グラスフィアという人間を、100%信用していたから。 

彼を疑うなど、私には有り得なかった。

「そうだ、羽久が戻ってきたら、皆で食べようと思って。クッキー用意してたんだよー。食べよ」

「学院長の引き出しは、さながら菓子屋だね」

「でしょ〜?」

褒め言葉褒め言葉。

すると、そこに。

「学院長、入りますよ」

タイミング良く、イレースちゃんがやって来た。
 
「あ、イレースちゃん!丁度良かった。一緒にクッキー食べ、」

「あら、羽久さん。戻ってたんですね」

私の話、ガン無視。

異議を唱えようとしたが、その前に。

イレースちゃんが、奇妙なことを言った。

「朝っぱらから学院長のお使いなんて、ご苦労様でしたね。全く。お使いくらい分身に行かせれば良いものを」

「…?何の話?」

私の?お使い?

「…何の話って、あなたが羽久さんに行かせたんでしょう?魔導教育委員会に報告書を届けさせに…」
 
「…?」

「職員室の私のデスクに、メモがありましたよ。学院長に頼まれて、朝イチで委員会に報告書を届けに行ってくる、って…」
 
…え?

ちょっと待って。何の話?

私、羽久にそんなお願い、してないよ?

それどころか。

「イレースちゃんが、羽久にお使い頼んだんでしょ?聖魔騎士団に報告書を届けに…。それと、シュニィちゃんから話があるって…」

「は…?」

「だって、私のデスクにメモが…」

「…何のことですか?私は、そんなこと頼んでませんよ?」

…え。

それはどういうこと?じゃあ、羽久は一体何処に行ってたんだ?

いや。

今ここにいる羽久は、一体、

思わず羽久を振り向いた、そのとき。

殺意の刃が、私に降りかかろうとしていた。
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