神殺しのクロノスタシスⅢ
「ナジュ…。令月の様子は?」

「あー、目を覚ましたらしいですよ」

そうか。

「良かったぁ…。令月君無事で…」

安堵するシルナである。

ま、ジャマ王国の、『アメノミコト』の毒にやられたんだもんな。

死んでいたとしても、おかしくなかった。

「たかが毒ごときで半日寝るとは。軟弱ですよねぇ。僕だったら秒で治りますよ」

「…」

誰もがお前みたいに、不死身だと思うなよ。

「さて、それじゃあこっちの元気な方を尋問…って、あれ」

「…」

饒舌なナジュが、黙り込んだ。

…何事だ?

そのとき、俺は気がついた。

いつの間にか、客人が。

ナジュの姿を認めるなり、目を閉じていたのである。

「え、えぇ!?だ、大丈夫?死んだ?死んでないよね!?」

狼狽するシルナ。

だが、

「別に死んでないよ」

目を閉じたまま、客人が答えた。

いや、本当は客人ではないのだが。

他に何て呼んだら良いのか分からない。

「ど、どうして目を…」

「そこにいる、読心魔法の使い手に心を読まれちゃ堪らないからね」

「…!」

…どういうことだ?

「…よく知ってますね」

珍しく、真面目な眼差しのナジュ。

「当たり前でしょ。不死身の上に、読心魔法…。厄介なのは事実だけど、でも、対抗策はある」

「…」

「君が心を読めるのは、正面から相手の目を見てるときだけ。距離が離れて目が見えなかったり、サングラスやスカーフで目を隠せば…いや、目を開けていなければ、心を読まれることはない」

「えっ、そうなんだ!」

俺も驚いたけど。

シルナが、一番驚いていた。

「そういえば、あなたが他人の心を読むときは、いつも対面でしたね」

と、イレース。

確かに、思い返せばそうだった。

つまり背中を向けてれば、心は読まれなくて済むってことか。

距離を取って、目を合わせないよう気を付けるのもアリ。

と言うか、目を閉じてれば良い。

そんな簡単な、単純なナジュ対策があったとは。

もっと早く知っていたかったよ。

「そうだったんだね!よし!今度から秘蔵のお菓子を隠すときは、目を閉じて隠そう!」

「いや、学院長の秘蔵のお菓子くらい、心を読まなくても探せますから。引き出しの二番目の奥、筆記具の後ろに潜ませた小箱に…」

「えぇぇ!!何で分かるの!?」

隠し場所が子供の発想だからだよ、馬鹿。

そのくらい、俺でも知ってるわ。

それより。

「尋問するのは勝手だけど、心は読ませないよ。この状態で、俺から何を引き出せるかな」

…このガキ。

くっそ生意気な…。

「なぁんだ…。心を読めないなら、僕役に立たないですね」

「全くです。尋問のプロの名は返上して頂かなくてはいけませんね」

「イレースさんも酷いこと言うし。あぁ悲しい。じゃあ僕は役に立ちそうにないんで、精神世界に行ってリリスに慰めてもらってきます」

「おい待てコラ」

一人だけへそ曲げて、逃げようとするな。

確かにナジュの読心魔法が使えないのは痛い。

『アメノミコト』の暗殺者の口の固さは、令月のときに散々思い知った。

だからこそ、ナジュに心を読ませて「通訳」を頼もうと思っていたのだが。

当てが外れた。

とはいえ、何も聞き出さない訳にはいかない。

やることは変わらない。

俺達は、この暗殺者の少年から、情報を聞き出さなくてはならないのだ。


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