神殺しのクロノスタシスⅢ
「さっき言ってましたよね。起き抜けに、そんなに簡単には出来ないって」

「…あぁ…」

…言ったな、そんなこと。

「洗脳魔法について、ほぼ何の知識もない現状、例え憶測だとしても、何か情報があるのなら、教えて頂きたいんですが」

「そうだな…。分かった」

この中で、最も強く洗脳魔法を受けたでたろう俺の言葉が、どれだけ信用してもらえるかは分からないが…。

「…信じますよ」

「…ナジュ…」

俺の心をいち早く読んで、ナジュがそう言った。

「さっきジュリスさんが言ったでしょう。信じなきゃ話が進まない。例えあなたが今もヴァルシーナの刺客で、僕達の知る羽久さんじゃないのだとしても、信じます。今ばかりは、お互い疑いはナシです。良いですね、すぐりさん達も」

一番疑いまくってるらしい、令月とすぐりに尋ねる。

「…しょーがないよね。この状況じゃ」

「分かった。羽久だって信じる」

…ありがとう。

「だから話してください。分かることがあるなら」

「…あぁ」

俺は、頭の中の記憶を呼び起こした。

洗脳魔法と聞いたとき、最初にピンと来たのだ。

「多分あの洗脳魔法、そう簡単には出来ないと思うんだ」

「さっきも言ってましたね。そう思うのは何故?」

「まず、洗脳魔法って多分、読心魔法並みに危険で、扱いの難しい魔法…なんだよな?」

俺は、シルナに聞いた。

イーニシュフェルトの里で、この研究をしていたのなら。

シルナも、覚えがあるだろうから。

「そうだね。ナジュ君は例外だけど…読心魔法は少なくとも、ナジュ君みたいに瞬時に使えるものじゃない。相手と目を合わせて、集中力を保って、じっくり相手の心を探る。そうやって、ようやく読心を可能にしてた」

「えー、どんだけ下手くそですか、それ」

ナジュ、ちょっと黙っててくれ。

お前が特別過ぎるだけた。

「で、洗脳魔法もまた、読心魔法と同列に並べられるほど、高度な魔法。そうなんだろ?」

「私の記憶では、そうだね。誰にでも使える魔法じゃないし、使えるようになるまでは時間がかかる」

「えー。僕、生まれたときから使えましたけど」

だから、ナジュはちょっと黙ってろって。

お前は例外なんだよ。

「そして俺には、洗脳魔法を受けたであろうと推測される状況が、二回思い出せる」

「…!それはいつのこと?」

勿論、確証がある訳じゃない。

あの狡猾な女のこと、俺達を油断させる為のブラフである可能性もある。

だが。

可能性があるって分かっていて、黙っているよりは遥かにマシだ。

「一つ目は、社会見学のとき」

「社会見学…?」

「毎年、聖魔騎士団魔導部隊に、生徒連れて社会見学に行くだろ?そのときヴァルシーナに会った」

「…!そういえば…」

思い出したか。

あのとき、ヴァルシーナが何の為に、見つかる危険を犯してまで、魔導部隊の隊舎に入り込んだのか。

俺に洗脳魔法をかける為だったとすれば、納得出来る。
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