神殺しのクロノスタシスⅢ
そして。

記念すべき、二回目のときは。

「二回目は…すぐりも覚えてるだろ?」

「いつのこと?」

「『アメノミコト』から受けた挑戦状。あの夜、森の奥で俺が水色と戦ってたとき」

「…!」

…どうやら、思い出してくれたようだな。

「あぁ、僕が毒で死にかけてたときのことですね」

嫌な思い出し方をするな。

「あのとき俺は、ヴァルシーナに会った。そして…二回共、共通してる点がある」

「共通…?」

「まず、一定時間…多分五分くらいは…ヴァルシーナと真っ直ぐ向かい合って、話をしてた」

「…」

洗脳魔法を、読心魔法に例えると。

多分その五分くらいの時間で、俺の目を見て、心を探ろうとしていたのだろう。

逆に言えば、その五分くらいがなければ、読心は出来ない。

今回の場合、読心ではなく洗脳だが。

それと。

「共通点はもう一つ。ヴァルシーナに洗脳魔法を受けたであろうその二回の邂逅の後、俺は意識が飛んでた」

「…!確かにあのとき、羽久せんせー、らしくもなくぼーっとしてたね」

そうだ。

水色との戦闘中だったのに、寝惚けたかのようにぼーっとしてた。

普通じゃ有り得ない。

あのときはどうかしてたんだ、と思って、勝手に納得していたが。

洗脳魔法の存在が明らかになった今、あれはヴァルシーナの洗脳魔法よるものと考えられる。

洗脳を受けていた直後なら、ぼーっとしていてもおかしくない。

「おまけに、ヴァルシーナと会った前後の記憶も曖昧だ」

「成程ね…。本当に洗脳魔法を受けていたんなら、無理もないな」

思い当たるのは、そのニ点だ。

それに二回目の邂逅のときは…「時間稼ぎは出来た」とか何とか言っていたような…。

それがもし、「洗脳魔法を完成させる為の時間稼ぎ」なのだとしたら。

ますます、辻褄が合う。

「…もしもヴァルシーナちゃんが、ナジュ君みたいに、生まれながらの洗脳魔法の使い手なのだとしたら、もっと里でも名を知られていたはずだね」

シルナが言った。 

だろうな。

ナジュみたいな、生まれながらの変態的魔法の使い手が。

二人も三人も、いてたまるか。

いくらイーニシュフェルトの里出身といえ。

「だから多分、ヴァルシーナちゃんは…羽久に新しい人格を作らせる為に、洗脳魔法を独自に訓練して、使えるようにしたんだ」

「つまり、連発や連用は出来ないし、さっき羽久さんが言った通り、色々な手順や時間を要して、初めて可能になる…ってことですか?」

「その可能性が高い」

…俺も、そう思う。

大体。

そんなに簡単に、洗脳魔法なんて便利な魔法が使えるのなら。

もっと早くに、それこそ一番最初に会ったときから、使ってきただろうしな。
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