神殺しのクロノスタシスⅢ
それに、何より…。

「洗脳魔法がそんなに万能なら、羽久さんから別人格を作り出して…なんて面倒臭いことはせずに、とっとと学院長を始末してるだろう、ですよね」

「…そうだよ」

俺の代わりに言ってくれて、どうもありがとうございますね。

俺が言おうとしてたんだけどね。

本当、ヴァルシーナがナジュみたいな、生まれながらの洗脳魔法使いじゃなくて助かった。

手の施しようがないところだった。

「そうですね。もっと早くに私達のうち誰かを洗脳して、学院長が油断かまして、チョコレート摘んで昼寝してる間に、首を刺せば簡単に殺せますし…」

「イレースちゃん…。そんな淡々と言わないで…」

普段、隙まみれだからな。シルナは。

涎垂らして昼寝してる間なんて、もう絶好のチャンス。

「そもそも、学院長自身に洗脳魔法をかければ…もっと話は早い…ですよね?」

と、天音。

その通り。

俺達など、使う必要はない。

下らない小細工なんて要らない。

シルナ自身を洗脳し、自害させるなり。

今からでも正しい道を歩ませる為、シルナ自身の手で俺を殺させれば良い。

俺だってシルナを100%信用しているんだから、俺の背中を刺すことくらい、何でもない。

それが最も簡単で、シンプルな方法なのに。

それをせず、わざわざこんな回りくどいやり方をするってことは…。

…こんな回りくどい方法でしか、使えないのだ。

彼女の洗脳魔法は、まだ。

完全に完成しているとは言えない。ナジュみたいに、万能に使い回せる訳じゃない。

それが出来るなら、もうとっくにやってる…。

「…とはいえ、これはあくまで楽観的推測でしかない。ヴァルシーナにはまた別の意図があって、本当はもっと簡単に使えるのかもしれない」

「こればかりは、僕もヴァルシーナの心を直接覗いた訳じゃないんでねー、分かりませんよね」

ナジュが読心魔法の弱点を克服したことは、ヴァルシーナの耳にも入っている。

故に、ヴァルシーナは本心や、自身の本命の計画を悟られないよう、ナジュからはあくまで逃げている。

ナジュのいないところで、事を進めようとしている。

だから今回も、真っ先にナジュを潰してから、レーヴァテインを本格的に動かしたのだ。

ヴァルシーナが、これほど慎重になっている。

これも計画のうちなのか、それとも俺達の楽観的推測通り、そうするしか手がないだけなのか…。

出来れば後者であって欲しいが、こればかりは本人でなければ、何とも言えない。
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