神殺しのクロノスタシスⅢ
「…ともあれ」

イレースが、コホンと咳払いをして言った。

「色々と厄介事を書き出した訳ですが…。実際これから私達、どうします?」

「…」

そうだな。

それを、決めないといけないな。

イレースが厄介事リストを、ホワイトボードに書き出してくれて助かった。

俺が寝ている間、どんな議論をしていたのかについても、大体推測がつく。

「…私達のやるべきことは、決まってる」

シルナが、静かにそう言った。

「私は今までずっと、二十音が生み出した人格は、全て二十音の身体本人だと思って、それぞれの人格を一人の人間として尊重してきた。それは、今までもこれからも変わらない」

…シルナ。

「…でも、レーヴァテインは違う。彼女はヴァルシーナちゃんが生み出した、二十音の望まない人格。彼女は…二十音の、偽物だ」

偽物。

俺の…この身体から作られた人格に対して。

他でもないシルナの口から、そんな言葉を聞く日が来るとは。

「そしてヴァルシーナちゃんは…元々、私の犠牲者だ。彼女が敵に回ったのは…私が、誤った選択をしたから」

「…」

「だから、この問題は私がケリをつける。ヴァルシーナちゃんのことも、レーヴァテインのことも、私が…」

「はい出ました。全部自分のせい学院長」

「またそこから、いちいち教えなければならないとは。猿に因数分解を教える方が、遥かに簡単な気がしますね」

イレース。言いたいことは分かるが。

猿に因数分解は、かなり無理があるぞ。

しかし、やっぱり言いたいことは分かる。

更に、天音も。

「今更そんな…。水臭いですよ、学院長先生」
 
苦笑しながら、そう言った。

「え、で、でも…」

「でもじゃねぇ。ふざけんな」

俺からも、言わせてもらうぞ。

俺はベッドから起き上がって、真っ直ぐにシルナを見つめた。

睨むように。

「一人で背負い込もうとするな。お前の問題なら、俺の、俺達の問題だ。シルナ一人に全部押し付けるほど、俺は薄情じゃない」

それに。

レーヴァテインは、この身体から生み出された人格。

俺にだって、充分関係のある問題だ。

それを、勝手にシルナ一人で背負い込まれたら堪らない。

そして、すぐりと令月も。

「大体さー、レーヴァテインの攻撃から学院長せんせーを守ったの、俺と『八千代』だし。その時点で、もうとっくに巻き込まれてるよね?今更引けないって」

「学院長には、色々恩がある。それにヴァルシーナが『アメノミコト』と繋がってる限り、これは僕達にも関係のある話だよ。無視することは出来ないし、そんなつもりはない」

「二人共…」

子供のナリして、言うことが逞し過ぎるな。

そして実際頼りになるから、恐ろしい。

「だ、だけど…。これは、作戦でもあるんだよ?ヴァルシーナちゃんが本当に洗脳魔法を使うなら、出来るだけ人数は絞った方が…」

ここにいる誰かが、洗脳魔法にかかる心配をしているようだが。

「ばーか。ここにいる時点で、既にそのリスクは負ってる」

「でも…!これからヴァルシーナちゃん達と戦うとなると、もっとその危険が…」

あー。

なんか、面倒臭くなってきた。

俺は、そっとジュリスに目配せした。

ここは、シルナと同じ年長者として。

バシッと一発、言ってやってくれ。
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