神殺しのクロノスタシスⅢ
私とて、苦渋の選択だったのだ。

この男と…『アメノミコト』と組むことは。

それでも、『カタストロフィ』を崩壊させられた以上、私が孤独にシルナ・エインリーを追うことは難しくなった。

私一人など、あの男にとってみれば、何の脅威でもないからだ。

今でも、忘れることは出来ない。

とどめを刺すことが出来たのに、あの男は私を生かした。

私に、情をかけたのだ。

思い出しただけで、腸が煮え繰り返る。

イーニシュフェルトの里の…我が一族の、裏切り者が。

本来なら、その裏切り者に敗北した私に、生きる価値などない。

私は、あの裏切り者と違い、生き恥を晒すつもりなどなかった。

だが、私はそれでも生きている。

例え、裏切り者に情をかけられて、生かされた命なのだとしても。

ならば、私にはまだ、やるべきことがあるということだ。

イーニシュフェルトの里の一族、私の祖父の悲願を踏みにじった、あの男に。

復讐する。今度こそ、私が正しい道に…「あるべき世界」に戻す。

その為なら、私は。

薄汚い、暗殺者集団とも手を組む。

使えるものなら、何だって使う。

故に。

私は、『アメノミコト』と手を組むことに決めた。

無論、奴らが異国の、得体の知れない魔導師である私を、簡単に受け入れる訳がないことは分かっていた。

だからこそ、私は自分の持っている手札を、鬼頭夜陰に提供した。

まず、奴らにとっても、私にとっても厄介だった、ルーチェス・ナジュ・アンブローシアの読心魔法。

その読心魔法の「対策法」を教授した。

あの男の読心魔法は、確かに厄介だが。

しかし、意識して心を閉ざし、心に蓋をしてしまえば、奴に本心を知られることはない。

一見突破法がないように見える読心魔法だが、抜け道はある。

その抜け道を、奴らに教えてやった。

あのまま、ナジュ・アンブローシアが、己の読心魔法の欠点に気づかなかれば良かったのだが。

奴は、私が『アメノミコト』に教授した読心魔法の対策法を、更に対策してきた。

最早、奴の読心魔法に、欠点はなくなった。

あれは想定外だった。

こんなことになるなら、『アメノミコト』にあの「対策法」を教えるべきではなかった。

こればかりは口惜しかったが、だが、『アメノミコト』との交渉材料には、どうしても必要だった。

そして、交渉材料はもう一つ。

読心魔法の「対策法」と、更に。

イーニシュフェルトの里で研究されていた、危険な魔法。

洗脳魔法である。
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