神殺しのクロノスタシスⅢ
「何を考えても良いけど、全部無駄だよ」

「…」

「脅されようが、拷問されようが、俺は口を割らない。何も喋るつもりはないよ」

…あ、そう。

完全に、下に見られてるな。

俺達が、子供相手に野蛮なことは出来ないと、たかを括ってる。

実際、その通りなのだから言い返せない。

今度は、こっちが黙らなきゃならない番だ。

黙秘君にとっては、捕まっても、さして痛くも痒くもない。

拷問されるどころか、客人待遇だ。

両手両足を拘束されてはいるものの、それ以上のことはされない。

虎の子の読心魔法も、目を閉じられていては、心を読まれることもない。

これだけ完璧に「対策」されては、こちらとしても扱いに困る。

どうしたら良いんだよ。

このままずっと拘束しておくのか?

それとも、聖魔騎士団に引き渡すのか?

いずれにしても同じことだ。

拘束して、閉じ込めておくくらいしか出来ない。

これほどの魔力の持ち主なら、飲食物の摂取も必要ないし。兵糧責めも通じない。

そもそも、乱暴な拷問によって自白させた情報は、ルーデュニア聖王国の憲法において、何の役にも立たないことになっている。

黙秘君もそれが分かってるから、こんな高圧的な態度を取れるのだ。

…腹が立つが、何も出来ないのは事実。

さて、どうしたものか。

と、思っていると。

「…ねぇ、少年君。君、『アメノミコト』に入って何年になるの?」

シルナが、そう尋ねた。

そんなこと聞いたって…。

「黙秘」

ほら。結局何も言わない。

しかし、シルナは。

「良いよ、答えなくて。ただ、聞かせて。『アメノミコト』に入って何年になるの?何歳のときに?どうして入ったの?…令月君みたいに、親に売られた?」

「…」

「自分から入った訳じゃないでしょ?その年で、それほど完成された暗殺者なんだもん。小さいときから訓練されてたんだよね。きっと凄く…辛い訓練だったよね」

「…」

「令月君がそうだったから、君もきっとそうなんだよね?令月君と同じように育ったんだよね?本当に…辛かったよね」

…シルナ。

そうか、そういう手段に出るか。

シルナの声は、相手の…黙秘君の、黙秘な心を溶かすように、柔らかなものだった。


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