神殺しのクロノスタシスⅢ
「うちにもね、君くらいの年の子はたくさんいる。毎年来てる。皆立派な魔導師の卵だけど、でもまだあどけないよ。子供だよ。そしてそれは…君も同じだよね」
「…」
「君は確かに、完成された暗殺者だ。卵なんてレベルじゃない。でも、そこに至るまで君は、どれほど辛い、苦しい思いをしてきた?」
…イーニシュフェルト魔導学院では、まだまだ殻の剥けてないひよこ達を、六年間かけて、立派な魔導師に仕込むのだ。
それなのに、令月しかり、この黙秘君しかり、既に完成された暗殺者になっている。
同じ年なのに、この差。
イレースがいた頃のラミッドフルス魔導学院より、遥かに厳しい教育を受けて育っているのは、間違いない。
それこそ、令月のときと同じように…洗脳、脅迫じみた教育を…。
「君を否定するつもりはない。でも、君の所属する組織のやることは、間違ってる。『アメノミコト』のやり方は、あまりにも残虐だ。君のことだって…きっと頭領は、使い捨ての駒としか思ってないはずだよ」
「…」
黙秘君が、ぴくりと動いた。
…使い捨ての駒。
自覚はあったか?
「たった一つしかない命、たった一つしかない人生なんだ。誰にだって幸せになる権利がある。『アメノミコト』にいたんじゃ、君は幸せにはなれない。そうでしょ?」
「…」
「望んで人を殺してるの?人を殺すのが楽しくて殺してるの?違うでしょ?それが役目だから、それをしないと自分が殺されるから、そうしてるだけでしょ?君は『アメノミコト』に…囚われているだけなんだ。身も心も」
「…」
「君みたいな子供を、脅して、使い捨てにして、平気な顔をしてる『アメノミコト』を、私は許せない。令月君を見て、それがよく分かった。『アメノミコト』は間違ってる。そこにいたんじゃ、君は一生暗闇の中に生き続けることになる。私はそれを見過ごせない」
「…」
「君は任務に失敗し、私達に囚われた。その時点で、君はもう、組織に帰っても殺されるだけ。そうでしょ?だったら帰らなくて良い。君もここにいて良いんだよ。ルーデュニアで、幸せに生きれば良い。死んだら罪を償うことも出来ない。だったら生きて。生きることが、君にとっての…」
「…そんな言葉に」
黙秘君が、口を開いた。
黙秘するんじゃなかったのか。
「そんな言葉に、『八千代』は騙されたの?」
「…『八千代』?」
「君達が令月君って呼んでる人。『八千代』はコードネームだよ」
…そうなんだ。
それは知らなかった。あいつ、コードネームなんか持ってたのか。
「『八千代』はそんな言葉に騙されたんだ。馬鹿だね。あいつ、あんなに優秀で、頭領様のお気に入りだって持て囃されてたのに、そんな馬鹿だったんだ」
「…令月君は馬鹿じゃないよ。彼は正しい選択をしたんだ」
「正しい選択?笑っちゃうよね〜。『俺は』そんな言葉には騙されない」
…こいつ。
爆発的なまでに、殺気が膨れ上がった。
「そんな甘い言葉ごときで、あいつ、君達に心を許したの?使えないねー。本当使えない。何で頭領様があんな役立たずを重宝したのか、全然分からないよ」
「…違うよ。令月君は正しい選択をしたんだ。君は間違った方に行こうとしてる」
「間違った方って何?君と俺達とは、生きてる世界が違うんだ。正しいとか間違ってるとか、勝手に決めないでよ。俺達にとっては、こっちの方が正しいんだ」
「…」
「そんな甘ったれた言葉に騙される、馬鹿な『八千代』と一緒にしないでくれる?俺は馬鹿じゃない。自分が何をすべきか、何が正しいのか、ちゃんと自分で分かってる」
「その馬鹿に、あなた負けてたじゃないですか」
痛烈なナジュである。
やっぱり、読心魔法を封じられたことを根に持ってるな。
「俺は君達には屈しない。絶対靡かれたりしない。俺の生まれてきた意味を、君達や『八千代』に否定されて堪るか」
「…君の生まれてきた意味って…それは何?」
「…頭領様の役に立つことに決まってるでしょ」
…そんな。
「…頭領様に認められること。必要とされること。それ以外に、俺に生きる価値なんてない」
「そんなことはない」
「良いよ分からなくて。理解なんてされなくて良い。俺がそう思ってるだけだから」
そう言って。
黙秘君は、パチリ、と目を開けた。
…えっ。
「…でも、それももう終わっちゃったんだよねー」
「…」
「君は確かに、完成された暗殺者だ。卵なんてレベルじゃない。でも、そこに至るまで君は、どれほど辛い、苦しい思いをしてきた?」
…イーニシュフェルト魔導学院では、まだまだ殻の剥けてないひよこ達を、六年間かけて、立派な魔導師に仕込むのだ。
それなのに、令月しかり、この黙秘君しかり、既に完成された暗殺者になっている。
同じ年なのに、この差。
イレースがいた頃のラミッドフルス魔導学院より、遥かに厳しい教育を受けて育っているのは、間違いない。
それこそ、令月のときと同じように…洗脳、脅迫じみた教育を…。
「君を否定するつもりはない。でも、君の所属する組織のやることは、間違ってる。『アメノミコト』のやり方は、あまりにも残虐だ。君のことだって…きっと頭領は、使い捨ての駒としか思ってないはずだよ」
「…」
黙秘君が、ぴくりと動いた。
…使い捨ての駒。
自覚はあったか?
「たった一つしかない命、たった一つしかない人生なんだ。誰にだって幸せになる権利がある。『アメノミコト』にいたんじゃ、君は幸せにはなれない。そうでしょ?」
「…」
「望んで人を殺してるの?人を殺すのが楽しくて殺してるの?違うでしょ?それが役目だから、それをしないと自分が殺されるから、そうしてるだけでしょ?君は『アメノミコト』に…囚われているだけなんだ。身も心も」
「…」
「君みたいな子供を、脅して、使い捨てにして、平気な顔をしてる『アメノミコト』を、私は許せない。令月君を見て、それがよく分かった。『アメノミコト』は間違ってる。そこにいたんじゃ、君は一生暗闇の中に生き続けることになる。私はそれを見過ごせない」
「…」
「君は任務に失敗し、私達に囚われた。その時点で、君はもう、組織に帰っても殺されるだけ。そうでしょ?だったら帰らなくて良い。君もここにいて良いんだよ。ルーデュニアで、幸せに生きれば良い。死んだら罪を償うことも出来ない。だったら生きて。生きることが、君にとっての…」
「…そんな言葉に」
黙秘君が、口を開いた。
黙秘するんじゃなかったのか。
「そんな言葉に、『八千代』は騙されたの?」
「…『八千代』?」
「君達が令月君って呼んでる人。『八千代』はコードネームだよ」
…そうなんだ。
それは知らなかった。あいつ、コードネームなんか持ってたのか。
「『八千代』はそんな言葉に騙されたんだ。馬鹿だね。あいつ、あんなに優秀で、頭領様のお気に入りだって持て囃されてたのに、そんな馬鹿だったんだ」
「…令月君は馬鹿じゃないよ。彼は正しい選択をしたんだ」
「正しい選択?笑っちゃうよね〜。『俺は』そんな言葉には騙されない」
…こいつ。
爆発的なまでに、殺気が膨れ上がった。
「そんな甘い言葉ごときで、あいつ、君達に心を許したの?使えないねー。本当使えない。何で頭領様があんな役立たずを重宝したのか、全然分からないよ」
「…違うよ。令月君は正しい選択をしたんだ。君は間違った方に行こうとしてる」
「間違った方って何?君と俺達とは、生きてる世界が違うんだ。正しいとか間違ってるとか、勝手に決めないでよ。俺達にとっては、こっちの方が正しいんだ」
「…」
「そんな甘ったれた言葉に騙される、馬鹿な『八千代』と一緒にしないでくれる?俺は馬鹿じゃない。自分が何をすべきか、何が正しいのか、ちゃんと自分で分かってる」
「その馬鹿に、あなた負けてたじゃないですか」
痛烈なナジュである。
やっぱり、読心魔法を封じられたことを根に持ってるな。
「俺は君達には屈しない。絶対靡かれたりしない。俺の生まれてきた意味を、君達や『八千代』に否定されて堪るか」
「…君の生まれてきた意味って…それは何?」
「…頭領様の役に立つことに決まってるでしょ」
…そんな。
「…頭領様に認められること。必要とされること。それ以外に、俺に生きる価値なんてない」
「そんなことはない」
「良いよ分からなくて。理解なんてされなくて良い。俺がそう思ってるだけだから」
そう言って。
黙秘君は、パチリ、と目を開けた。
…えっ。
「…でも、それももう終わっちゃったんだよねー」