神殺しのクロノスタシスⅢ
「『八千代』!緑!」

「分かった!」

『八千代』は、足元に張った緑の糸に足を乗せた。

途端、バネに弾かれたように、『八千代』の身体が天井付近まで吹っ飛んだ。

高さとしては、俺と同じくらい。

「!?」

「…!!」

いきなり、目の前の敵がいなくなった二人の暗殺者は。

無様に、お互いの顔を見てお見合い。

そして。

俺は、展開させていた全ての糸を、一斉に「閉じた」。

無数の糸が、繭のように絡まり合い、二人の暗殺者を一人ずつ拘束し。

そのまま、身体を簀巻きにされた二人は、撒菱まみれの床に叩きつけられた。
 
こういう作戦だった。

俺が空中に逃げて、大量の糸を張り巡らせ、俺と『八千代』の為のフィールドを作る。

その間の時間稼ぎを、『八千代』が担当する。

そして糸の準備が済んだら、『八千代』を空中に緊急離脱させ。

フィールド全体に張り巡らされた糸を一気に集結させ、敵を絡め取り、繭のように拘束して戦闘不能にする。

色々考えた作戦のうちの、一つだ。

この作戦は、俺が安全圏で罠を仕掛けてる間、『八千代』だけに負担と危険がかかる、『八千代』には面白くない作戦だ。

おまけに、散々リスクを負って時間稼ぎしたのに、いざ敵を拘束するのは俺なのだから。

多分、ますます『八千代』にとっては面白くない。

でも、『八千代』は躊躇わなかった。

俺を信じること、俺に作戦の手綱を託すこと、その為に自分の命を危険に晒すこと。

何一つ、躊躇わなかった。

…ほんっとに。

馬鹿しょーじき、ってのは、こーいう奴のことを言うんだろうなーって。

ともかく。

俺達が考え、実行した作戦は、見事に成功した。

だが、まだ死んでない。

俺の魔法で作った糸の繭にくるまれて、床の上で無様に藻掻いている。

俺と『八千代』は、一歩前に出た。

…とどめを、刺す為に。
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