神殺しのクロノスタシスⅢ
そして。

ヴァルシーナと、もう一人…。

孤独なはずのヴァルシーナの、唯一の味方。

…いや、彼女は味方と言えるのだろうか。

洗脳によって生み出された存在が。

…それでも。

俺と全く同じ容姿をした彼女は、確かにそこに存在していた。

まるで、鏡写しのコピーのように。

そして実際、彼女は俺の鏡写しの存在だ。

…レーヴァテイン。

全面的にシルナの味方をする二十音・グラスフィアと、対を為し。

シルナの敵になり、本来の「あるべき世界」を取り戻そうとする存在。

世界の善悪から見れば、きっと彼女の方がヒーローで。

俺の方が、間違っているのだろう。

けれど俺は。

けれど、二十音・グラスフィアは。

シルナの選択した、間違った選択のお陰で。

今こうしてここに、存在することが出来るのだ。

…何という皮肉だろう。

あの日、邪神をこの身に下ろした日。

シルナに殺されるべきはずだった存在が、俺の前にいる。

再び、選択を迫るかのように。

それでも。

シルナがあの日、俺を、二十音を守ることを選択したように。

俺もまた、そんなシルナを選んだのだ。

だったら、何を揺らぐことがあるだろう。

俺の、この身体に宿る人格の全ては。

シルナの味方で、シルナを支える人間でなければならないのだ。

例えそれが、間違った選択なのだとしても。

「…裏切り者め」

憎々しげに、ヴァルシーナがシルナを睨みつけた。

< 612 / 822 >

この作品をシェア

pagetop