神殺しのクロノスタシスⅢ
…相変わらず。

口を開けば、そればかりだな。

ナジュじゃないが、彼女の心の中を覗いてみたい。

シルナへの憎悪以外に、彼女に感情というものはあるのだろうか。

「貴様が裏切ったばかりに。貴様が裏切らなければ。貴様が…」

「裏切らなければ、こんな破れかぶれの作戦を実行に移さずに済んだのに、って?」

…!

「…シルナ…?」

破れかぶれって…。

「…貴様、今何と言った」

ヴァルシーナが、目を剥いて尋ね返した。

「だってそうでしょう。誇り高きイーニシュフェルトの里の一族が、薄汚い暗殺集団を手を組み、洗脳魔法なんて邪道な魔法を使い…。本当に君がイーニシュフェルトの里の誇りを矜持とするなら、そんなことは絶対したくなかった。そうでしょ?」

「…」

ヴァルシーナは答えない。

「それなのに、そんな手段を取らざるを得なかった。つまりそれは、君が孤独だからだ。他に、私に対抗する手段がないからだ」

「…黙れ」

「そして、苦渋の決断で組んだ『アメノミコト』にも、ほとんど見離され。だから、憎いはずの二十音から別人格を派生させ…。そのレーヴァテインだって、君にとっては仲間じゃない。味方であるってだけで、道具としか思ってない」

「黙れ」

「私を憎むのは良い。それは君の自由だし、当然の権利だ。でもだからって、私が背負おうとしたものを、君が肩代わりする必要はない。過去を忘れろとは言わない。だけど君はもう、自由になって良い。復讐に囚われる必要は、」

「黙れ!!!」

ヴァルシーナが、爆発的な殺気を放ち。

容赦なく杖を向け、巨大な炎の球体をぶつけてきた。

あまりの熱気に、皮膚がジリジリと焼けそうになった。

しかし。

シルナは全く動じることなく、その炎の球体に向けて、杖を向け。

ヴァルシーナと同等の…いや、それ以上の出力の、水魔法を展開し。

ヴァルシーナの太陽のような炎を、一瞬で消してしまった。

「…」

…シルナがいたら、もう、消防車要らないな。

「私の生き方を、貴様のような裏切り者が勝手に決めるな!」

それでも、ヴァルシーナは叫ぶ。

必死に、シルナに反対する。

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