神殺しのクロノスタシスⅢ
「決めてはいない。ただ、勧めてるだけだよ。これ以上復讐に囚われていても、君は苦しいだけだ。全てを私のせいにして、私を言い訳に、君はもう肩の荷を降ろしなさい。その方が良い」

「貴様が裏切ったせいだ!全ては貴様が発端なのだ。貴様さえ、裏切らなければ…!」

「そうだね、私のせいだ。だから全ての責任を私に押し付けて、ヴァルシーナちゃん、君は自由に生きて良い亅

「戯言を!!」

叫ぶなり、ヴァルシーナはシルナに肉薄した。

杖から、ヴァルシーナの全身から、殺気が迸っている。

完全にキレてる。

「シルナ!」

「大丈夫だよ」

加勢に入ろうとしたが、シルナは拒絶した。 

大丈夫ったって、お前…。

「世界を守らなかったのは私の責任で、君の責任じゃない」

「私は貴様が裏切ったから、代わりに世界を正す義務がある!一族の、祖父の無念を晴らす為に…」

「そんな義務はない。君が勝手に、そう思い込んでるだけだ」

シルナ、馬鹿。

何でそんな、ヴァルシーナを煽るようなことばかり…。

「私が間違った選択をしたことは、君には何の関係もない。君が一族の信念を捨てて自由に生きたとしても、誰も君を恨んだりしないよ」

「戯言を言うな!!貴様が正さなければ、私が代わりに正す!それが、私の使命…」

「ここまで言っても、分からないのかい?」

「!?」

僅か、一分にも満たない攻防で。

中庭には、辺りが見えないほどの粉塵が広がっていて。

何が起こっているのか、俺にも見えなかったが。

しかし。

土煙が消え、ようやく二人の姿が見えたとき。

勝敗は、あまりにもあっという間に決していた。

ヴァルシーナは地面に尻餅をつき、両手には、何も持っていなかった。

シルナはそんなヴァルシーナを、立ったまま見下ろしていた。

片手に自分の、もう片方の手にヴァルシーナの杖を持って。

…こんなにも、あっさりと。

「き…貴様…」

ヴァルシーナは、苦しげに立ち上がろうとした。

「返せ…!」

「良いよ」

おい、返すのかよ。

シルナは、ポイッとヴァルシーナの杖を、彼女に向かって放った。

そのまま、没収しとけば良いものを…。

しかし。

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