神殺しのクロノスタシスⅢ
「何で族長含む長老達が、私を神殺しの魔法の使い手に選んだと思う?」

ヴァルシーナは答えない。

シルナに放られた杖を、今度は絶対に渡さぬとばかりに、強く握り締める。

「何で、イーニシュフェルトの誇りを忘れない、立派な心の持ち主であるヴァルシーナちゃんじゃなくて、他でもないこの私を選んだんだと思う?」

「…」

やはり、ヴァルシーナは答えない。

内心、その答えが分かっているからだろう。

「君よりも、私の方が優秀だと判断されたからだよ。今も、昔もね」 

「…!」

ヴァルシーナは、憤怒に燃えた顔をしていたが。

…純粋で、単純な話だ。

世界と一族の命運を、シルナに託したのは。

ヴァルシーナより、シルナの方が優れているから。

自身の孫娘よりも、シルナの方が強かったからだ。

そしてそれは、今も変わらない。

シルナへの復讐心、「あるべき世界」への執着。

そんなものに囚われ、一歩も前に進めないヴァルシーナ。

彼女が復讐心を燃やし、代わりに自分が神を殺し、裏切り者の始末をしようと画策している間。

シルナもまた、シルナの選んだ世界を守る為の下準備を進めていた。

ルーデュニア聖王国建国に、裏から手を回し。

イーニシュフェルト魔導学院を創設し。

そこで、自分の仲間となる魔導師達を育て上げた。

同じ時間が与えられていたにも関わらず。

シルナの足元は、盤石で揺るがないものに成長しているのに対し。

ヴァルシーナはどうだ。

彼女は一度、『カタストロフィ』という組織を立ち上げ、俺達に牙を向いたが。

それは、シルナの盤石な足元を揺るがすには至らず。

結局、一度の敗北の末、大事な一族の誇りとやらを捨ててまで、異国の暗殺者組織と手を組み。

挙げ句、洗脳魔法なんて怪しい魔法に手を出し。

憎んでいるはずの、二十音・グラスフィアから別人格を派生させ。

そんな悪い存在だけが、洗脳魔法によって無理矢理従わせているだけの存在が。

彼女にとって、今では唯一の味方。

そして今。

シルナとの一騎打ちで、またしても敗北した。

ヴァルシーナは肩で息をしなから膝を付き。

シルナは汗一つかかず、そんなヴァルシーナを見下ろしている。

この差。

この埋められない、圧倒的で絶望的な差。

この差こそが、かつて神殺しの魔法の使い手として、シルナが選ばれた理由なのだ。
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