神殺しのクロノスタシスⅢ
同胞を殺したくない。その気持ちは分かるが。

その気持ちを、尊重してあげたいところだが。

ヴァルシーナを殺す機会なんて、そう滅多に巡ってくるものではない。

そしてこの女は、ここまで言われてもなお、憎悪を捨ててはいない。

むしろ、煽りに煽られて、余計復讐心を滾らせてるくらいだろう。

そんなヴァルシーナを、生きて返したらどうなるか。

二度あることは、きっと三度もあるそ。

また悪どいことを考え、俺達の前に立ち塞がるだろう。

今度は、もっと厄介な形で。

ならば今ここで、三度目の可能性を潰しておくべきなのではないか?

その方が、絶対に安全だ。

だが、シルナは。

「良いよ。ヴァルシーナちゃんが何を画策しようが、私には届かないって分かってるから」

「…」

…また、煽るようなことを。

その絶対的な自信は何処から。

まぁ、実際そうなんだろうけど。

かと言って…。

「それと、せめてレーヴァテインは…」

「…あぁ…レーヴァテインね」

つい今さっき気づきました、みたいな顔のシルナ。

さては、ヴァルシーナしか見えてなかったな?

レーヴァテインもいるんだぞ。気づいてやれよ。

「羽久は、どうしたい?」

「…俺は」

彼女をどうしたら良いのか、分からない。

彼女は俺と同じだ。

レーヴァテインは、洗脳魔法から強制的に作り出されたとはいえ。

この身体から生み出された、二十音・グラスフィアの人格の一つ。

そんな彼女を、俺に裁く権利などない。

「…じゃあ、君はどうしたい?」

「…」

シルナは、レーヴァテイン自身に尋ねた。

レーヴァテインは、圧倒的実力差をつけられて、打ちひしがれたヴァルシーナを、黙って見ていた。

洗脳魔法によって、そのように操作されているのか。

それとも、レーヴァテイン自身の意志なのかは分からない。

何処まで、レーヴァテインが洗脳されているのか。

ある程度は、自分の意志を持っているのだろうか?

すると。

「…私は、それでもお前達を間違った存在だと思っている」

レーヴァテインは、シルナを真っ直ぐに指差して、そう言った。

…そうか。

それは洗脳による意志なのか、それともお前の意見なのか?
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