神殺しのクロノスタシスⅢ
「間違った世界は正すべきだ。お前は間違ってる。身体の中に邪神を飼うなど…正気の沙汰ではない」

「…重々承知してるよ」

まぁ、正気の沙汰ではないのは事実だな。

俺だって、この身体の中に、悪の神様がいるなんて信じられないくらいなのだから。

レーヴァテインにとって、こんな身体と「同居」するのは耐えられないのだろう。

「でもそれは、お前の意志なのか?」

俺は、レーヴァテインに尋ねた。

自分と、全く同じ容姿をした人間に語りかける。

まるで、ドッペルゲンガーにでも会ったような気分だ。

「洗脳魔法によって、ヴァルシーナに都合の良い意見を言うように、仕向けられているだけじゃないのか」

本当は。

レーヴァテインの本当の意志は、別にあるのではないのか。

勿論、確かめる術などないのだけれど…。

しかし。

「私の意志が、他の誰かによって作り出されたものであっても、そんなことは関係ない」

レーヴァテインは、きっぱりとそう言い切った。

「それを言うなら、お前も同じだ、羽久・グラスフィア。シルナ・エインリーに付き従うのは、お前の意志か?」

…何?

「ただお前のオリジナル、お前を作り出した二十音・グラスフィアの意志を、そのまま受け継いだだけじゃないのか。お前がシルナ・エインリーの味方をするのは、本当にお前の意志か?」

…それは。

…痛いところを突かれた気分だな。

そうかもしれない。

俺がシルナの味方をするのは、俺を作った二十音の意志であって。

本当の、「羽久・グラスフィア」の意志ではないのかもしれない。

そういう意味では、俺も洗脳魔法によって作り出された人格と言っても、過言ではない。

レーヴァテインは、ヴァルシーナによって。

俺は、二十音・グラスフィアによって。

創設者が違うだけで、それぞれオリジナルの意志を尊重しただけの、自我のない存在なのかもしれない。

それは誰にも分からない。

ナジュだって、最初に会ったときは、俺のことを空っぽだと言ったくらいだもんな。

本当は、俺にもレーヴァテインにも、自分の意志なんてものはないのかもしれない。

だけど。

…そんなことは関係ない、よな。

「俺は俺だ。二十音の意志がどうであれ、俺はシルナの味方で、シルナの相棒だ」

「羽久…」

だから、そんな呆けたような顔をするな、馬鹿シルナ。

「親」が誰であろうと、「子」である俺達には、俺達の意志がある。

それが例え、「親」によってそう思い込むよう、仕込まれたものであったとしても。

「ならば、私も同じだ。私はお前達に敵対する。私と思いを同じくするのは、ヴァルシーナ様だけだ」

「…レーヴァテイン…」

ヴァルシーナは、自分が作り出した人物を見つめた。

「例えヴァルシーナ様が、私を道具としてしか見ていなかったとしても。それでも私は、私の意志として、お前達を認めない。邪神はこの世にあってはならない存在。そして、お前達もまた」

「…」

「だから殺す。今でなくても、いずれ必ず、私はお前を殺す。お前達を殺し、世界をあるべきものに戻す」

「…そうか」

それがお前の…レーヴァテインの意志か。

お前がそう思うのなら、それで良い。

その思いを貫いて、生きていけば良い。

レーヴァテインは、黙ってヴァルシーナに肩を貸し、彼女を立たせた。

ヴァルシーナは何も言わず、されるがままになっていた。

今ヴァルシーナは、何を考えているのか…。

「…君の唯一の味方だね。大事にしなさい」

シルナが、そっとヴァルシーナの背中に語りかけた。

やはり、ヴァルシーナは答えなかった。

…で、このまま見逃す訳か。

相変わらずシルナも甘いと思うが、でも俺だって、今回ばかりは、シルナを責められない。

同じ気持ちだからだ。

俺だって、レーヴァテインを殺せない。

レーヴァテインが怖いからじゃない。

何となく彼女は、自分の同胞のような気がしているから。

シルナがヴァルシーナを殺さないのも、きっと同じりゆ、






…そこで、俺の意識は途切れた。
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