神殺しのクロノスタシスⅢ
「え、えっと…。じゃあね、すぐり君」

「え。本名で呼ぶの?長いこと呼ばれてなかったから、なんか不自然…」

「ど、どっちが良かった?」

「好きな方で良いよ」

「じゃあすぐり君…」

結局本名で呼ぶのかよ。

まぁ、暗殺組織がつけたコードネームなんて、呼びたくないわな。

「すぐり君は…何を命令されてきたの?令月君を殺すこと?」

「そう。裏切り者の抹殺」

「私や、イーニシュフェルト魔導学院の生徒達を殺すようには、指示されてないの?」

「されてない。つーか、君誰?」

衝撃の事実。

自分が尋問してる相手の名前すら、分かってなかった。

「…シルナです。シルナ・エインリー学院長です…」

名前分かってなかったのかと、しょんぼり気味に教えるシルナ。

「へぇ。そっちは?」

俺の方に視線を向けて問う。

「…羽久・グラスフィア。時魔法の教師だ」

「じゃあそっちの、女の人は?その人も教師?それとも学院長の愛人とか?」

ずっこけるところだった。

シルナが。

「誰が愛人ですか。死んでも御免です。イレース・クローリア。私も教員です」

死んでも御免だってさ。

俺も御免だよ。

「へぇ~」

「僕は?僕の名前は聞かなくて大丈夫ですか?」

自己主張の激しいナジュである。

しかし。

「君は知ってる。厄介な読心魔法の使い手で、不死身の教師。確かナジュ・アンブローシアだっけ」

「僕だけ名乗る機会がないとか、不公平過ぎません?」

「…知るかよ…」

お前だけめちゃくちゃ警戒されてたってことだろ。むしろ喜べよ。

シルナなんて、全然覚えてもらえてなかったんだ、ってショック受けてるぞ。

良いんだ。おっさんの名前なんか覚えなくても。

普通に生きていける。

「それで、すぐり」

「んー?」

軽いな。

「お前、一人で来たのか?派遣されたのはお前だけか?」

「違うよ。もう一人いる」

…何だと?

「そいつは何処にいる?」

「知らない」

ナジュを見る。

無反応。

ってことは、真実を語っているのだ。

「森の奥で、俺と『八千代』が戦ってるとき、周囲を見張ってもらってたんだけど。それから離れ離れになった。今頃、身を隠して何処かに潜伏してるはずだよ」

「…心当たりはないのか?」

「ないね〜。俺が敵の手に落ちた時点で、俺の心当たりのある場所に、身を隠すはずがないじゃん」

まぁ…そうか。

『アメノミコト』の暗殺者同士は、良くも悪くも仲間意識がないからな。

味方とはいえ、敵に捕まったとなれば、あっさりと見捨てる。

助けになんか来ないし、居場所を悟られるようなこともしない。

「ちなみに、そいつの名前は?」

「『玉響』。コードネームだから、本名は知らないね」

『玉響』ねぇ…。

「俺が捕まったから、今度は一人で『八千代』暗殺に乗り出すんじゃないかな。気を付けた方が良いよ」

「…あ、そう」

「それよりさぁ」

黙秘君…改め、花曇すぐりは。

うんざりした顔で、

「俺の処遇が気になるんだけど。どうなるの?どうされるの?殺されるの?」

「…殺さないよ」

「だったら、ずっとこのまま?さすがに両手足動かせないのはキツいんだけど」

「…そうだね」

そう言うなり、シルナはすぐりの拘束を解いた。

解いた瞬間、襲い掛かってくるようなこともなかった。

「あぁ、楽になった」

と、満足そうな表情。

「それで?俺は何をすれば良いんだっけ。校内の罰掃除?」

それはイレースの拷問。

「…どうするつもりだ?シルナ」

何となく。

察してはいるけど、聞いてみる。

「…君、歳はいくつ?」

「13」

令月より年下かよ。

「成程、じゃあ丁度良い」

「何が?」

「令月君のときと違って、今は春だし。新学期だし。丁度良い」

…やっぱり、そうなるか。

もう察してたから、誰も何も言わない。

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