神殺しのクロノスタシスⅢ
―――――――…羽久が二十音に「入れ替わった」、その瞬間に。

私は、何とか止めようとしたが。

間に合わなかった。

懐中時計を手にした二十音が、レーヴァテインに触れるなり。

レーヴァテインの身体は、朽ち果てるように塵となった。

そして。

レーヴァテインを一瞬で殺した二十音の殺意は、ヴァルシーナちゃんに向いた。

レーヴァテインは、どうにもならなかったが。

でも、ヴァルシーナちゃんだけは。

私は、ヴァルシーナちゃんに掴みかかろうとする二十音を、抱き締めるようにして止めた。

「二十音!やめなさい!」

「あれ…あいつ、敵。しーちゃんを、傷つける敵…」

完全に、ヴァルシーナちゃんを敵とみなしている。

「敵じゃない。彼女は敵じゃないから。傷つけちゃ駄目」

「あいつが『あんなモノ』を生んだんだ。あいつが、しーちゃんの敵になるモノを…」

そうか。

二十音が怒っているのは、レーヴァテインのみならず。

自分の目を謀り、掻い潜って、レーヴァテインなんていう…二十音の最も望まない人格を、無理矢理生み出した存在。

それが、ヴァルシーナちゃんなのだ。

だから二十音は、私が何と言おうと、ヴァルシーナを敵とみなす。

私の敵じゃない。二十音自身の敵なのだ。

そうなったら…。

「ヴァルシーナちゃん!逃げて!」

「っ…!」

唯一の味方を、あまりにもあっという間に、あっさりと奪われて。

放心する気持ちは、充分に分かるけども。

だけど今は、それどころじゃない。

ヴァルシーナちゃんが、この場から退かないことには。

二十音は、何としても彼女を殺そうとする。

憎い人格を生み出した敵を、殺す為に。

「で、でも」

「良いから行きなさい!早く!」

私だって、そう長く二十音を止めることは出来ない。

本当に暴走した二十音は、私とて簡単には止められないのだ。

「…っ!」

結果。

ヴァルシーナちゃんは、憎しみとも、悲しみとも知れない目をして。

その場から、霧のように消え去った。

…良かった。
< 620 / 822 >

この作品をシェア

pagetop