神殺しのクロノスタシスⅢ
急いで、俺達は学院内に戻った。

が。

食堂にも、第二講義室にも、学院長室にも、誰もいなくて。

でも、戦闘が行われたであろう痕は、くっきりと残っていて。

食堂なんか、壁に大穴が開いていた。

それなのに誰もいないから、俺達は酷く焦った。

まさかと思いながら、今度は校舎を出て、第一稽古場に向かうと。

そこには。





「全く、何ですかこの体たらくは。これが元暗殺者達の戦い方ですか」

「いやー、そんなん言われてもさー…。しょーがないじゃん。ねぇ『八千代』」

「それに、敵が撒菱を使ってくるとは思ってなかったから」

「とかいうイレースさんだって、食堂に風穴開けてたじゃないですか。お互い様でしょ」

「仕方ないから、あれは私の財布から出します。それとナジュさん、あなた、これ拾い終わったら、稽古場を隈なく一周してください」

「え?」

「取り残しがあったら、生徒に万が一のことがあるかもしれません。万一踏み抜いたとしても、あなたなら不死身でしょう」

「えぇぇー!何ですか、その古典的な地雷探しみたいなの!残酷!」

「ま、まぁ、この毒、致死性のものじゃなくて、痺れさせる為の毒みたいだから…」

…。

…皆で、ゴミ拾い、ならぬ。

…撒菱拾いを、していた。

…俺達の心配は何処に?

「…お前ら何やってんの?」

「あ、学院長だ」

「あー、もう遅いよー。早く手伝って」

「え、な、何を?」

「これだよ、これ。皆やってるじゃん」

これ、とは。

この、第一稽古場内一面に、びっしりと撒き散らされた…撒菱のことか。

そして、撒菱と同じく、大量に落ちているゴミ(らしきもの)。

無駄に色とりどりでカラフルな、糸である。

…??

しかも、稽古場の窓ガラス割れてるし。

どうなってんだ、この惨状。

しかし、でも、とりあえず…。

「…皆無事だったんだな?」

「当たり前でしょう。私達を誰と思ってるんです」

…本当にな。

ちょっとでも心配した、俺が馬鹿だったか?

「天音も…。人質になって散々だったが、あの後大丈夫だったんだな」

「え?あぁ…うん、まぁ」

何故か、ちょっと焦り気味の天音。

…?

「天音さんはあれですよ。こう、秘めたる力を開放し、トゥルーフォームの天音さんになったので…」

「あ、あああちょっとナジュさん!それ以上は!それ以上は内緒だから!」

…ますます、よく分からんが。

なんかシルナは苦笑いだし。

でも、皆大した怪我もなく、黙々と撒菱をひろっ、

「…ってない!ナジュ!」

「はい?」

「お前右手は!?右手何処に忘れてきた!」

「今は亡き、ご老人への手向けに捧げてきました」

よく分からんが、切られたんだな。

あるいは、トカゲの尻尾代わりに自分で切ったか?

「でもまぁ、さっき天音さんが回復魔法かけてくれたんで、もう治ってますよ。ほら」

ナジュの右腕の、肘から下辺りが。

びじゅびじゅびじゅ、と気色悪い音を立てて、細胞分裂が進んでいる。

…元気に再生しているのは、良いことなんだけどさ。

…まぁ、あんまりナマで見るものではないな。うん。
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