神殺しのクロノスタシスⅢ
「まぁ、皆生きてて何よりだよ…」

俺は、早速撒菱拾いに加わった。

毒が塗ってあるので、厳重に特製ゴム手袋を嵌めて。

良い子の皆は、決して素手で毒のついた撒菱を拾っちゃいけないぞ。

まぁ、撒菱がその辺に落っこちてる状況って、あんまりないと思うけど。

なんでもこの撒菱、令月とすぐりを狙った暗殺者達が、ご丁寧に撒き散らしてくれたらしい。

窓ガラスが割れているのは、正面入り口から入ったら、敵の罠にかかるかもしれないと思って、窓ガラス割って入ったんだと。

っていう話を、撒菱拾いしながら、令月とすぐりが話してくれた。

「そんでねー、ナジュせんせー嵌める為に考えた作戦を、『終日組』の暗殺者で試してみたんだー」

「『八千歳』の糸をいっぱい出して、それを色順に踏んでいったら、凄く自由に動けるんだよ」

「そりゃそーでしょ。『八千代』が動きやすいよーに、ぜつみょ〜な角度を調整して張ってあげたんだから」

「緑の糸だけ、踏んだらゴムみたいにぴょーんって飛べるんだよ。危うく天井に頭ぶつけるところだった」

「あはは。『八千代』が助走つけるからさー」

仲良さそうで何よりだが。

これで、稽古場に大量の糸が残されてる理由が分かった。

「全く、自分の作った糸の後始末くらい、自分でしなさい」

イレースが、ぶつぶつ言いながら壁にくっついた糸を、ブチッと引っこ抜いていった。

「えー。だって、いつも使ってる糸は、魔法解いたら消えるけどさー。『八千代』が色付きの糸じゃないと見えないって言うから」

色付きの糸は、魔法を解いてもなかなか消えないらしい。

お陰で、すぐりが稽古場中に大量に張り巡らせた、糸の処理までしなければならない。

ブチッブチッと千切っていく。

魔法はもう解けてるのに、まだ結構な強度残ってるよこれ。

「でも、その戦術のお陰で勝てたんだよ」

と、令月。

そうだな。

何であれ、勝てたんだから良かった。

「そういえば、二人で組み出して初めての『実戦』だったね」

確かに。

「上手く行って良かったよね〜」

「うん。でも、もうこの戦術はバレちゃったから、不死身先生には使えないね」

「ほんとだ。次の作戦考えないと」

「打倒学院長の夢は、まだ遠いね…」

「ねー。いつになることやら…。卒業までには倒せるかなー」

「…君達…仲良さそうに話してるのは良いんだけど…何の相談?」

震え声のシルナ。

だってさ、大変だなシルナ。

この二人に狙われたら、さすがの俺でも、戦うより先に逃げる方を選択するぞ。

何考えてるか分かったもんじゃない。

この大量の糸と、割れた窓ガラスから察するに、子供の考える作戦って派手だからな。

何仕掛けられてもおかしくない。

…それで。

元暗殺者二人組の作戦が、見事に成功したのは良かったとして。

「イレースはどうだったんだ?大丈夫だったのか?」

「楽勝でした。…と、言いたいところですが、正直苦戦しましたね」

えっ。

< 625 / 822 >

この作品をシェア

pagetop