神殺しのクロノスタシスⅢ
「…」

「…」

「…あ、もう言わなくて良いです」

俺もシルナも無言だったからか。

それとも、早速俺とシルナの心を読んで察したのか。

ナジュは、もうこの話は終わりとばかりに、撒菱拾いに戻った。

丁度、右手の手のひらが再生されてる途中だった。

…俺が黙っていたのは、途中から俺が入れ替わって、俺じゃなくなってたから。

シルナの代わりに俺が話すのは、どうかと思ったのだ。

でも、シルナに話させるのも…。

あまり、後味の良い話ではないし…。

「…」

俺とシルナの中に、暗い何かを察した大人達は、それ以上何も言わず、黙々と作業を続けた。

しかし。

この中には、大人だけでなく、子供がいる。

そして子供は、時に大人よりも残酷である。

「?結局どうなったの?ヴァルシーナとかいうのは殺したの?」

「羽久せんせーの謎分身は?死んだの?」

情けとか、容赦とか、一切ない。

これぞ、『アメノミコト』育ちの子供。

立派に成長してるよ、本当。

「馬鹿。あなた達、少しは察しなさい」

「あ、あのね。大丈夫だよ。それは学院長達が上手く対処したから…」

イレースがたしなめ、天音が何とか誤魔化そうとしてくれたものの。

「察する?じゃーやっぱり死んだんだ」

「対処って、処分したってことだよね。なら死んだんだね」

駄目だ。

完全に、思考回路が『アメノミコト』仕様。

「…シルナ」

「あはは…。子供って容赦ないね…」

全くだよ。

苦笑いするしかない。

そして、こうなったらもう仕方ない。

「…ヴァルシーナちゃんはね、逃げたよ。と言うか…逃した」

はっきり、二人にも、イレース達にも伝えなければなるまい。

今回、俺達の争いに巻き込んでしまった、当事者の一人でもあるのだから。

彼らには、知る権利がある。

「え、わざと逃したの?何で?」

「殺せるときに殺しておかなくて、どーするの?」

相変わらず、暗殺者思考が抜けない元暗殺者の二人。
 
敵とみなした者は、誰であれ何であれ、排除出来るときに排除しておくべき、という考えなのだ。

それは確かに間違ってない…のかもしれないけど。

いささか、短絡的な思考でもある。

人間、そんなに物事を決められたら、苦労しないってね。

ましてや、人の生き死にが絡んでいるなら、なおのこと。
 
「敵は殺しておかないと。きっとまた攻撃してくるよ。今度はもっと、強力な敵になって」

「そーだよ。みすみす取り逃しちゃうなんて、考え浅くない?」

うん。

正論だ。正論なんだけど…。

「…大人にはね、子供に分からない感情やしがらみや因縁や…あれこれがあるんだよ、令月君、すぐり君」

シルナは、力なく微笑んでそう答えた。

…本当にな。

だから、大人って大変なんだよ。
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