神殺しのクロノスタシスⅢ
「…」

「…」

令月とすぐりは、無言で顔を見合わせ。

「…大人ってズルいよね〜。答えに困ったら、すーぐ『子供には分からないから』って言う」

「うん。でもきっと、大人も言い訳考えるのが大変なんだよ。ここは僕達も大人になって、そういうことにしておいてあげよう」

そう言うお前達の思考回路は、充分子供らしくて結構。

しかも。

「…じゃあレーヴァテインはどうしたの?」

おい。

ここは大人の考えで、そういうことにしておくんじゃなかったのか。

ちゃっかり聞いてくるのか。ヴァルシーナの顛末とレーヴァテインの顛末は別の話か。そうなのか?

お前達は本当、あらゆる面から大人を困らせてくる、厄介な子供だよ。

そして。

ヴァルシーナについて話したのなら、レーヴァテインについても無視する訳にはいかない。

「…レーヴァテインは、逃がそうとしたんだけど…俺が殺した、らしい」

「らしいって?」

「正しくは俺じゃなくて、『前の』俺」

令月とすぐりは、再び顔を見合わせる。

「…どーいうこと?」

「確か羽久には、色んな人格があって、羽久はその人格のうちの一つでしかないんだよ」

「へー、一つの部屋に、何人かが同居してるってこと?賑やかだねー」

こういうデリケートな話を、当の本人の前で、無邪気に語るってのも。

子供の、残酷なところだよな。

「じゃー、二人のうち一人は逃して、もう一人は殺したってことか」

「戦果は50%…微妙だね」

「俺達はちゃんと、二人で二人殺したし。俺達の方が上だね〜」

マジで無邪気。

悪意なく言ってるからな、こいつら。

これでもし悪意があって言ってるんなら、「そんなこと言うな!」って説教も出来るんだろうけど。

全く悪意がないので、説教したところで、二人共「?」状態になるのは目に見えている。

しょうがない。『アメノミコト』育ちの子供に、そういう配慮を期待するのが間違ってる。

そして、二人が言ってることは、紛れもない事実だ。

二十音も、それが分かっていたから、レーヴァテインを逃さなかった。

レーヴァテインを逃せば、後々また俺達の前に立ち塞がることになると分かっていた。

それに何より二十音は、自分の身体の中から、シルナに敵対する人格が生まれてしまったことに耐えられなかった。

だから遅かれ早かれ、レーヴァテインは二十音が始末していただろう。

そして、ヴァルシーナに関しても。

俺達はみすみす、彼女を逃したのだ。

復讐鬼であるヴァルシーナを。

シルナが、舌戦によって彼女の敵愾心を挫いたとはいえ。

現状ヴァルシーナは、まだ『アメノミコト』と手を組んだままだ。

彼女の性格からして、いくらシルナに「自由に生きて良い」と言われたって。

彼女の、イーニシュフェルトの里の一族としての名誉と誇りが、それを許さないだろう。

それだけが、ヴァルシーナのアイデンティティなのだから。

遠からず、きっとまたヴァルシーナは、何らかの形で俺達に接触してくる。

利害が反している限り、敵対は免れないだろう。

そういう意味では、令月とすぐりの言う通り、彼女を始末しておくべきだった。

復讐と、一族の使命に囚われたヴァルシーナの悲痛な運命から、解放するという意味でも。

しかし、シルナにはそれが出来なかった。

それが出来なかったシルナを、俺は責めるつもりはない。

シルナの葛藤も、よく分かるから。

一番近くにいたから。シルナの気持ちは、俺が一番よく知っている。

だから俺だけは、シルナを責めない。

…良かったのだ、あれで。

例え、再びまたヴァルシーナが、俺達の前に立ち塞がることになろうとも。

ヴァルシーナを殺せなかった、シルナの弱さを…俺は受け入れる。

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