神殺しのクロノスタシスⅢ
…と、言いたいところだが。

「ねぇー、イレースせんせー」

「…何です」

「俺達さー、この夏休み、全然休んでなくない?」

すぐりが、筆ペンを動かしながら言った。

最初の頃は、すぐりは令月に対抗して、意地でも筆は使わん、とばかりに。

鉛筆を使用していたすぐりだったが。

令月と和解した今は、何処をどう妥協したのか、筆ペンを愛用している。

で、令月は相変わらず、逞しい筆使い。

二人して墨汁ばっかり使って、間違えたときどうやって消すんだ、と思うかもしれないが。

普通に間違えた箇所に二重線引いて、改めて書き直してる。

いい加減鉛筆使えよ、と思うけど。

もう何も言わない。

それよりも。

「ツキナや他の生徒達は、今頃実家に帰って、夏を満喫してるんでしょ?」

「それが何ですか」

「俺達、人生で初めての夏休みなのに、全然休めてなくない?」

…言われてみれば。

まぁ、確かにそうかもな。

「毎日畑と花壇の世話してさー、ナジュせんせー相手に『八千代』と訓練してさー、なんか『アメノミコト』も攻めてくるしさー」

うん。

「全然休めてないよ。だから残り僅かになった夏休みを、精々最後だけは穏やかに過ごしたいんだけど」

…真っ当な意見だな。

その気持ちは分かる。

今まで、夏休みも糞もない、働かせられっぱなしの人生送ってきたんだから。

自由になった今、せめて夏休みくらい、ちゃんと普通の子供のように、楽しませてやりたい。

俺もそう思う。

しかし。

「夏休みを満喫するのは自由です。でもそれは」

元ラミッドフルスの鬼教官の目が、ギラリと光った。

「…夏休みの宿題を、ちゃんと終わらせてからです」

…うん。

相変わらず、容赦ないなイレースは。

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