神殺しのクロノスタシスⅢ
それでも。

筆ペンを動かしながら、すぐりは不満顔。

「大体さー、もーいーじゃん。俺、『八千代』と仲良くしてるし。『終日組』の暗殺者も退けたし。他の生徒よりずっと頑張った夏休みだったよ?」

正論ではある。

「だったらもー、宿題とか良くない?やらなくても。俺達が夏休みにやるべきことは、じゅーぶんやったでしょ」

…その気持ちは、分からなくもない。

この二人、他の生徒達よりは、遥かにスリリングでハードな夏休み送ってるし。

今更、終わってない宿題なんて、どうでも、

「それとこれとは別です。宿題を終わらせていない者が、人並みに夏休みを満喫出来ると思ったら、大きな間違いです」

鬼教官、容赦なし。

お前達、あんなに頑張ったのにな。

人並みに夏休みを満喫することさえ、出来ないらしいぞ。

「ちぇー…」

不満げな顔で、それでも一応真面目に宿題に取り組んでる辺りは、すぐりも偉いな。

「…で?俺がこーんなに宿題頑張ってるのに、ナジュせんせーは何処だよ?」

「あー…。あいつ、『折角暇になったんで、昼間っからリリスとイチャついてきます!』ってさ」

わざわざ俺に宣言して行ったよ。

百歩譲って行くのは良いとしても、黙って行け。

「ナジュせんせーが遊んでるのにさー、何で俺は勉強させられてんの?」

良い質問だ。

すると、イレースが答えた。

「将来あんな大人にならない為に、今勉強するんです」

反面教師にしろと、そういうことか。

言われてるぞナジュ。

「全く、普段から真面目にコツコツやらないから、そういうことになるんです。計画性のない大人にはならな、」

と、イレースが諭そうとした、

そのとき。

「ただいま〜!」

頭の中、完全お花畑の男が、学院長室に戻ってきた。

何を隠そう、この男こそ。

我がイーニシュフェルト魔導学院学院長、シルナ・エインリーであった。

「アイスクリーム買ってきたよ〜!」

部屋の中の、冷たい空気にも気づかず。

それとも、この冷たい空気に合わせて、冷たいものを買ってきた、気遣いのつもりなのか。

この絶妙なタイミングで、シルナが帰ってきやがった。

しかも、空気を読まない。

「はいっ、こっちがさっぱりチョコアイス、こっちがノーマルチョコアイス、こっちは濃厚チョコアイス!皆好きなの選んで良いよ〜!」

そして、俺達にチョコアイス以外の選択肢、なし。

せめてバニラは入れるべきだよな?

ストロベリーや抹茶を買ってこいとは言わんよ。シルナだからな。

せめてバニラくらいは持ってこいよ。

しかし、それでも。

「はい!俺ノーマル!ノーマル食べる」

「僕はさっぱりが良いかな」

宿題にうんざりしていたらしい二人は、チョコアイスに食いつく。

良かったな。

そういえば。

前みたいに、すぐりが令月に対抗して、同じものを食べたがることもなくなったな。

ますます、良かったな。
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